マンモス社は、フォーブスの「30歳未満の30人」に選ばれたこともある最高経営責任者(CEO)のトレバー・マーティン(32)や、ゲノム編集技術「クリスパー・キャス9」の開発でノーベル化学賞を受賞したジェニファー・ダウドナ米カリフォルニア大学教授(57)らが2017年に設立した。
同社は、DNAを切断・編集して治療や診断をするのに用いるタンパク質の世界最大級のリポジトリーを構築している。家を建てるときに作業ごとに異なる工具を使うように、医療でも用途によって異なるタンパク質が必要になるとマーティンは説明する。「治療にふさわしいタンパク質もあれば、診断にうってつけのタンパク質もあり、そのどちらにも向いたタンパク質もある」というわけだ。
投資家たちはマンモス社のタンパク質ツールによって、ゲノム編集で最も慎重を要する問題のひとつである、体内への遺伝子の直接導入にかかわる問題が解決できると期待を寄せている。体内に編集ツールを直接投与するこの治療法は、患者から細胞を取り出して治療し、再び体内に戻す体外(ex vivo)遺伝子治療に対して、体内(in vivo)遺伝子治療と呼ばれる。
マンモス社は具体的な治療対象は公表していないが、肝臓疾患や、神経を冒す病気、がん免疫などに注力していると述べている。そのため、サイズがきわめて小さいことから体内での遺伝子編集に向いている「キャス14」と「キャスɸ」という2つのタンパク質を重視している。
マーティンによれば、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)以前には、診断の重要性は軽視され気味だったが、パンデミックをきっかけに、クリスパーを利用したマンモス社の診断製品の開発は加速したという。「おそらく過小評価されていた分野と、クリスパーのような非常に革新的な技術が組み合わされると、驚異的なインパクトが生じ、人々の生活をより良い方向に変えうることがあるのです」とマーティンは言う。
マンモス社のチームは、英グラクソ・スミスクラインやドイツのメルク傘下のミリポアシグマといった企業と提携することで、新型コロナ関連の取り組みを迅速に強化できたという。その診断ソリューションは米国立衛生研究所(NIH)が主導するプログラムに採用されたほか、米国防総省との契約も成立した。昨年夏には診断プラットフォーム「DETECTR(ディテクター)」について、新型コロナの診断用途で米食品医薬品局(FDA)から緊急使用許可も得ている。
同社の9日の発表によると、シリーズCラウンドで4500万ドル(約49億5000万円)、シリーズDラウンドで1億5000万ドル(約165億円)を調達した。米ベンチャーキャピタルのメイフィールド、米アマゾンなども出資した。
シード段階からマンモス社に出資しているメイフィールドのパートナー、アーシート・パリクは、未来のテックエコノミーにインテルやマイクロソフト、アップルが欠かせない存在と思われているように、マンモス社もバイオテック分野で同様の存在になっているとみる。マンモス社によって「クリスパー技術を利用した製品の開発や改良がしやすくなった」ため、10年後には、この技術を利用した製品がもっと多く市場に出回っているとも予想している。