新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)との戦いでは、前例のない速さで開発されたワクチンがなお最大の武器となっている。しかし世界中で感染者が再び急増するなか、とくに軽症患者向けの治療法を増やすことが引き続き課題になっている。そうできれば、病床が足りなくなっている病院の負担を軽減できるからだ。
そこで出番となるのが、米ノースカロライナ州ダーラムに本社を置くエミットバイオだ。同社は、LEDを使って光を照射する携帯型機器を開発した。用いているLEDは、可視スペクトラムすべてではなく高精度の周波数の光を用いる点以外、一般の電球用のものと同様の技術だという。
この機器では、高精度の周波数の光を患者の鼻や喉の奥に照射してウイルスを死滅させ、免疫反応を引き起こす。モノクローナル抗体などのように病院で受けなくてはならない治療法と異なり、症状が軽い患者が自宅で使用できる仕様になっている。
光だけで病気を治療できるというのはにわかに信じがたい話に聞こえるが、エミットバイオのニール・ハンター会長(59)にとっては驚きではない。ただ、「簡単にはわかってもらえないでしょうし、大手製薬会社や公的な研究機関からすれば信じられないような話でしょう」とも認める。
エミットバイオはもともと、LEDで照射可能なさまざまな周波数の光を利用した免疫反応の刺激について研究しており、今回の技術もそこから誕生した。その後、新型コロナのパンデミックが起きると、ヒトの肺組織を使って、新型コロナウイルスになんらかの影響を及ぼす周波数の光があるかどうか調べる実験を始めた。
初期結果では、開発したLED機器によってウイルス量を減らせることがわかり、一定の成果が得られた。そして9月1日、同社は、実験でヒトの肺組織に3日間にわたって1日2回、5分間光を照射したところ、デルタ株のウイルスを99.99%除去できたと発表した。
エミットバイオのネイト・スタスコ最高科学責任者(CSO、41)によると、この技術はアルファ株、ベータ株、ガンマ株という先行する変異株に効果があることも確認しており、今回、同じ技術をデルタ株についても使用できることがわかった。
エミットバイオはこの機器について、ヒトを対象とした試験も始めている。先ごろ、軽度から中程度の症状の新型コロナ患者31人を対象に行ったある研究では、この機器で治療を受けた患者はウイルス量が有意に減少し、対照群に比べて2日半ほど早く症状が改善したという。この研究結果をまとめた論文は専門誌に投稿し、査読を受けている段階だ。