アップルは他のシリコンバレー企業とは異なり、これまでリモートワークを積極的に受け入れてこなかった。ティム・クック最高経営責任者(CEO)は以前、世界13万7000人の従業員に対して、9月初旬からのオフィス勤務再開を通知し、週3日のオフィス勤務と2日のリモートワークまたは在宅勤務を求めていた。
クックの決定は当時、従業員の反発を生んだ。従業員約80人はクックへ宛てた公開書簡で、「現在の方針は、私たちのニーズの多くに応えるには不十分だ」と不満を表明した。「私たちはほぼ完全にリモートで仕事をしつつ、アップルの評判通りの製品・サービスの質を提供す方法を習得した」と訴えた。
そして今、皮肉なことに、新たな変異株の感染拡大により、アップルの従業員はリモートワークを継続できることとなった。中には、約2年間にわたりオフィスへ出社しない人も出てくるだろう。
アップルが方針を変更したのも無理はない。企業幹部には、従業員の健康と安全に配慮する義務がある。仮にクックがオフィス勤務再開を強行し、従業員が新型コロナウイルスに感染したら、アップルに対しては訴訟や世間からの批判が起きることだろう。リモートワークを希望していた従業員との間の緊張がさらに高まる可能性もある。
オフィス勤務再開を延期した企業は、アップルだけではない。アマゾンは、来年1月3日までの延期を発表。同社はこれまで、事務職社員を9月7日までにオフィスへ復帰させる予定だった。ベス・ガレッティ最高人事責任者は、同社は今後「新型コロナウイルス感染症の状況を注視する」と述べている。
アマゾン従業員の大多数は、会社の決定に失望することはないだろう。シアトル・タイムズ紙のアンケート調査によると、アマゾン従業員の約92%が少なくとも週の一部をリモートワークとすることを望んでいる。
アマゾンと同じくシアトルに本社を置くマイクロソフトもまた、オフィス勤務再開を延期。さらに、従業員に対してワクチン接種を義務付ける方針を示した。同社はオフィス勤務の完全再開を9月7日から10月4日に先延ばしした。同社はワクチンの義務化について、健康や宗教上の理由によりできない従業員に対しては配慮するとしている。
大手資産運用会社のブラックロック、保険会社のプルデンシャル、グーグル、フェイスブック、ツイッターもまた、オフィス勤務再開を1カ月ほど延期している。