大山(続き):ただ、選手たちからこうしてほしいという声はなかなかあげられない環境でした。ユニフォームは大体のチームで監督が用意するのが当たり前でしたし、監督やコーチに対して意見を言える環境ではないことがほとんどです。ユニフォームのことだけではなくあらゆる面で、選手側から意見するなんてとんでもない、という力関係がありました。何より競技のルールで決まっていることもあるので、なかなか変えることは難しいですよね。だから諦めてしまっていたところがありました。
NYNJ三村:監督やコーチとの力関係に驚きました。困ったことがあった時に相談できる人や、アスリートへのケアはないのでしょうか。
大山:誰かに相談すると監督の耳に入って、メンバーから外されるのではないか、スタメンで使ってもらえないのではないか、などとどうしても思ってしまう環境がありました。例えば「生理でしんどい」という困り事があっても「しんどい、痛い、つらい=弱い」という感覚が指導者にも選手のなかにも育っているので、気付いていても「そんなものに負けるな」と軽視してしまうのです。
だからこれからは、例えば高校生や中学生の部活でも、養護教諭の先生などが部活動と連携して、女子選手が気軽に相談できる環境ができるといいと思います。監督やコーチの受け入れる姿勢も大切ですね。
NYNJ和倉:今後、日本でアスリートのメンタル面でのケアを充実させるためには、どのような支援が必要だと思いますか。
大山:体の怪我だと休まないといけない、となりますが、心の不調は「弱さ」と捉えられてしまいます。その概念をまず壊すことが必要です。心の不調は体の怪我と同じで、むしろもっと重いものなんだという意識が社会に浸透していくことが必要だと思います。
アスリート自身も、強くなければいけない、弱さを見せるのは恥ずかしいことだと思ってしまっていますし、幼い頃からそう教えられています。だから、まずはジュニアの選手を取り巻く環境や、指導者や保護者の考え方を変えていくことも重要です。カウンセラーや心の面でのトレーナーもチームに常駐している必要があります。つらい、苦しいという声を口に出せる環境が整っていってほしいと思います。
オリンピック開催で見えるアスリートの立場
NYNJ足立:コロナ禍のオリンピック開催となり、アスリートがオリンピック反対や辞退を表明するよう求められるなど、抱えなくていいはずの負担を負っているように思いました。また、アスリートは影響力を持っている一方で、政治的な発言は控えるべきだという意見もあります。こうしたいまの日本社会で、アスリートはどのような立場に置かれているとお考えですか?