ハンガリーのブランドに学ぶ、異文化を正しく「適用」する方法

ブダペストにあるナヌーシュカ本店(Nanushka)


自分たちの文化を真正面から捉えていったとき、自分たちの文化とは言いにくい、または見せたくない歴史があるのですね。つまり歴史や文化を、場合によっては一部を切り取ることも止むを得ない。それを歴史に対して不誠実と考えなくて良いのではないか、という態度表明だと受け取りました。

ナヌーシュカでは、ハンガリーの田舎にある小さな村でつくられるセラミックボタンを2020年の春夏コレクションから使っています。サンダー氏は、異なった文化の要素を使う場合、それをダイレクトにデザインに用いることを良しとしていないのですが、このケースでは、彼女は自ら村へ出向き、手を動かす女性たちと共に学びながらボタンをデザインしています。

そして、「自分の文化の外にある文化要素を使うなら、可能な限りそのコミュニティのなかに入り込んだうえで使いたい。そして、コミュニティの人に貢献できるかどうかを指標にしたい」と語ります。


ロマ族の子どもたちと (c)Nanushka

小国が持てる“感度”の高さ


さて、ハンガリーは大国としての歴史があります。しかし現在は、政治的・経済・文化的に大きな影響力を出しているとも言えない。したがって、他地域の文化要素を取り入れることで「文化の盗用」と非難を浴びにくい状況であり、「ある意味、大国ではないことを有利に使えるのでは?」と聞いてみました。

「答えづらい質問ですね……。グローバルにコミュニケーションができる時代にあって文化の誤解は起きやすい。他方、ハンガリーは人口1000万人の小国。大国の影響を受けることが多いため、異なる文化への感度が高い。その力を発揮することにポイントがあると言えるでしょう。仮に盗用と指摘されることが起きたら、それを素早く認めて透明性ある解決を図るのが新しいラグジュアリーのあり方だと考えています」(バルダスティ氏)

同社は文化感度の高さが一つの売りになっている。それを裏付けるように、サンダー氏は「モデルも、ダイバーシティだからといって数字で人種を配分したのではなく、いつも直観で選んでいくと結果的にダイバーシティになるのです」と説明します。

中野さん、新しいラグジュアリーは今までの主流文化の“周縁”で生まれやすいという仮説の検証を、ぼくはこの2年以上やってきました。大きな船は結局、いつでもその気になれば先端を取り込めるという説の反証ですね。

その点でフランスのラグジュアリーコングロマリットは、これから多くの試練に立ち向かうことになると予想されます。文化感度の面から新しい動きについてコメントいただけると嬉しいです。
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文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

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