依然、彼女の英語話力は日本語よりはるかに流ちょうではあるが、大坂なおみの最大の市場価値は、その“言語化する能力”にあると言えるだろう。
不鮮明な消費者層の開拓を望むブランド企業の間では、大坂を、このうえない試金石として目する向きはますます強まっている。
日本とカリブにルーツをもち、アメリカで育った大坂は、3つの市場を無理なく獲得している。加えて彼女は、ヨーロッパで最も人気のあるスポーツのひとつであるテニスにおいて、現在、最大級のスターなのだ。
それゆえに彼女は、欧州というもうひとつの大きな市場においても、大きな訴求力をもつ。このような大坂の超越性は、マスターカードのような企業にとっては、さらなる市場開拓の可能性を意味する。
彼女の知名度と市場価値があれば、世界中のどの地域でも、ブランドアンバサダーを務めることができるからだ。
加えて彼女の職業は、世界中を飛びまわることが大前提の、テニス選手である。
ツアーのスケジュールにうまく合わせさえすれば、メルボルンからマイアミ、そしてマドリードにいたるまで、世界中で商品のプロモーションをしてもらえるのも利点だ。
特にアメリカでは、多くのブランド企業は年配の白人男性によって運営され、そのような層の関心と欲求を標的としてきた歴史がある。対して大坂は、若く、文化的に多様性のある女性であり、しかも世界最高のアスリートのひとりなのだ。
近頃の大坂は、個人的なことから政治的な問題に至るまで、率直に発信するようになってきている。
それでも、スポンサーの価値を毀損することがないのは、彼女が自身の立場や目的意識を、慎重に配慮した上で行動しているからだ。
そしてそれは、彼女自身と彼女の“チーム”が、スポンサーを選ぶ時の姿勢でもある。例えばナイキは、社会的に先進的な倫理観をもつブランドであり、大坂が旗幟を鮮明にした際には支持してくれるパートナーでもある。