「一般株主の変化を感じた」。こう振り返るのはニッセイ基礎研究所チーフ株式ストラテジストの井出真吾氏だ。具体例として挙げるのは、みずほフィナンシャルグループの株主総会である。
メディアの関心は子会社のみずほ銀行で起きた大規模なシステム障害に関する会社側の発言に集中した感があったが、同氏は「気候変動対策に関する株主の質問が多かった」点に着目。「ESGやSDGs(持続可能な開発目標)に強い関心を抱く“令和時代の株主”が増えてきた」と見る。
その背景には「アクティビストの姿勢が変わってきたことがある」(井出氏)。日本における従来のアクティビストのイメージは「攻撃的」。短期間で高い運用利回りを上げようと投資先企業に対して大幅な増配、自社株買いなどの株主還元や、事業売却といった大規模なリストラを要求。このため、「ハゲタカ」などと称されることもあった。
ところが、最近は「アクティビストが企業と“ウイン・ウイン”の関係を目指す傾向が強まったため、一般株主などの賛同も得やすくなった」(井出氏)。高利回りを実現したら投資先企業の株式を売り抜けてしまうのではなく、中長期のスタンスで経営に参画し収益構造やガバナンスの変革などに注力するアクティビストも少なくない。
代表例が米サンフランシスコに本拠を構えるヘッジファンドの「バリューアクトキャピタル」。日本で同社の名が広く知られるようになったのはオリンパスへの社外取締役の派遣だ。
バリューアクトは2018年5月にオリンパス株の大量保有報告書を提出。5.04%の同社株保有が明らかになった。その後、19年6月に開かれたオリンパスの株主総会でバリューアクトのパートナーのデイビッド・ロバート・ヘイル氏が社外取締役に就任。経営への関与を強めたとみられる。
株価は報告書提出翌日の965円から先週16日には2196.5円と約2.3倍の水準に上昇。経営面でも立て直しが進む。20年6月には同社の象徴ともいうべきカメラ事業から撤退。医療機器事業への経営資源集中などが奏功し、本業の儲けを示す営業利益は19年3月期の282億円あまりから22年3月期には約4.5倍の1260億円まで拡大する見通しだ。
米『インスティテューショナル・インベスター』誌(電子版)によれば、バリューアクトのメイソン・モーフィット最高経営責任者は19年に行った講演で、「われわれは学び、教えるという関係を実現できる数少ない存在である」などと他のアクティビストとの違いを強調した。
20年6月にはフォトレジストなどの半導体材料を手掛けるJSR株式の大量保有報告書も提出。6.2%の同社株保有が判明した。JSRは今年6月の総会でロバート・ヘイル氏をJSRの社外取締役として迎え入れることを決めた。バリューアクトは、セブン&アイ・ホールディングスの大株主にも登場。日本企業への攻勢を強める。