アクティビストへの対応で揺れた東芝の株主総会では、会社提案の取締役選任案の一部が否決される異例の事態となった。同社が公表した総会での議決権行使結果によると、取締役会議長だった永山治氏への反対の割合が56.06%に達し、監査委員会の委員を務めていた小林伸行氏には74.36%が反対した。
同社の外国人投資家の持ち株比率は約50%。つまり、アクティビスト以外の海外勢だけでなく、国内の機関投資家や一般株主なども足並みをそろえた可能性が高い。
「ESGのSこそ収益に影響をあたえるのに」
今年の総会では女性を取締役として選任する例も相次いだ。女性の登用は株主側の意向を汲んだ面もありそうだ。
株式市場で“クジラ”などと称される世界一の機関投資家、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が20年度の運用状況を公表した。業務概況書にはGPIFの株式運用を受託する機関の重視する主なESG課題が記載されている。昨年12月時点でGPIFが受託機関を対象に実施した調査結果をまとめたものだ。
概況書によると、目安とするベンチマークの株価指数に連動した成果を目指すパッシブ運用(国内株式を受託する機関のすべてが重視するESG課題は5項目。19年度は『気候変動』『不祥事』『情報開示』の3項目だったのに対し、20年度は『サプライチェーン』と並んで『ダイバーシティ』が新たに加わった。
日本株を保有するフランスの資産運用会社の幹部は「ESGのうち、(ダイバーシティなどを含む)“S”への取り組みについては、収益に大きな影響を与えるとの認識が企業側に乏しい」と話す。株主側が今後、一段と厳しい監視の眼を光らせるのは必至だ。
一方、新型コロナウイルスの感染対策で昨年に続き、人数制限をする総会も目立った。あるコンサルタントは、全体の100分の1にも満たない株主の出席で開かれた顧問先企業の総会に参加。「短時間で終了した」などと満足げなようすの経営陣に「勘違いしないでください」と釘を刺したという。
企業側には、アクティビストなどの要求を受け入れても「仏作って魂入れず」という結果に終わることを懸念するムードも依然として強い。それでも、株主側の変化を見誤れば、総会でお灸を据えられる。東芝の例を「対岸の火事」で済ませてはいけないのは明らかだ。
連載 : 足で稼ぐ大学教員が読む経済
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