「言い切らない」強さをもつこと 地域編集から見えた「ふつう」のあり方|#U30と考える

連載「U30と考えるソーシャルグッド」 ゲストは、Re:S代表の編集者、藤本智士


藤本:私は、Re:S(有限会社りす)という会社で活動しています。Re:Sは=Re Standardの略なんですが、それを自分なりに訳したのが「あたらしいふつうを提案する」でした。現代は「これが普通」「常識だ」、と、普通がすごく強固なものになっていますよね。例えば、SNSやネットニュースの見出しでは、文字数の問題と、より多くの人に読んでもらうために「これはこうだ」と言い切るきらいがあります。でもほとんどの事象は、良いところと悪いところの両面がある。またそれは、どの位置から見るかで捉え方が変わります。

そういった曖昧さを内包したもの、時代によって変わっていくものの象徴が、僕のなかでは「ふつう」なんです。「ふつう」は一つじゃないし変化する。安易に答えを出すのではなく、白黒はっきりしていない曖昧なものをそのまま受け入れる、そんな「あたらしいふつう」を提案しようと思いました。それに「ふつう」をテーマに掲げる以上、変わっていかなきゃいけないし、変わっていくことができる。それが心地いいんです。

藤本智士
2012年から2016年に発行されていたフリーマガジン『のんびり』を再編集した書籍『のんびり NONビリ』(2019年オークラ出版)。

秋田から発信しようと思ったのは、秋田県が少子高齢化人口減少ナンバーワンだったからです。僕は「減る=怖がる」というのは、経済も人口も増える時代を生きてきた人たち特有の強迫観念だと思っていて、もはや減ることを前提に生きてきた僕たちは、そのなかで、これまでの経済指標とは違ったモノサシを見出していきたいと思っています。そう考えた時、減ることのトップランナーである秋田から、自らその事例を他の地方に伝える意味があるんじゃないかと思いました。

また当時は、2011年の東日本大震災直後だったんですが、秋田県では直接的な死者が出なかったことから、明らかにさまざまが疲弊しているのに隣県の支援に励んでいて、しかし、国からの経済支援は被害の大きかった太平洋側に集中していたので、誰かが秋田を発信しなければ、という使命感を感じたのも一つの理由でした。

都会に行きたかったら「どんどん行けばいい」


NO YOUTH NO JAPAN和倉莉央(以下、NYNJ和倉):私は奈良県で生まれ育ったのですが、4年間ほど神戸に住んでいました。神戸の繁華街に初めて行った時は、駅の近さや人の動きの速さにショックを受けました。それに対して藤本さんは神戸で生まれ育ち、田舎によく行きますが、逆に田舎に行く時に感じるカルチャーショックはありますか。

藤本:いっぱいあります。ただ、都会と地方のギャップというより、その地域ごとの個性として捉えています。東京は東京の、奈良は奈良の、土地ごとの個性がある。それが一番わかりやすい違いは、食文化かもしれません。例えば秋田にはハタハタ寿司というのがあるんですが、冬の一時期だけに大量に漁れる鰰(はたはた)を、なんとかして年間通して食べられるようにと、発酵させた飯寿司です。こんな風に独特の食文化というのはその土地の風土に紐づいているので。

NYNJ足立:地方には「私の街には何もない、都会に出ていきたい」という若者も多いと思います。そうした若者に、どんな言葉をかけたいですか。

藤本:メディアを見て、都会への憧れを抱くのは自然なことだし、そういう人はどんどん都会に行けばいいと思います。外からあらためて自分の町を見て、良さに気づくこともありますし、それはある意味で地元の良さに気づく一番の近道かもしれないです。一方、ほぼ県外に出たことがないなんて人も、そのことを恥じたりしないでほしいです。一つの地域にずっといることも、外でさまざまを体験するのも、どちらも同じだけ尊いです。なので、とにかく、自分がどうしたいかという気持ちに自然に寄り添って行動すればいいんじゃないかなと思います。
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文=和倉莉央(NO YOUTH NO JAPAN)

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