3Dバイオプリンティングでは細胞を生きたインクとして使用する。ヒトの皮膚だけでなく臓器もプリントできることから、その用途には高い期待が寄せられ、近年の医療ではかなり注目を集めている。
そして2019年、ユニークな特徴を持った3Dバイオプリンターが開発された。ユニークな特徴とは可搬性だ。貴重な3Dバイオプリンターで迅速な治療を提供し、治療コストを大幅に削減することが可能になったのである。
アメリカのウェイクフォレスト大学再生医療研究所(WFIRM)に所属し、この新しいシステムを発表した論文筆頭筆者でもあるショーン・マーフィ助教授は、次のように述べている。
「このデバイスには可搬性という新しい特徴がある。広範囲な創傷の治療現場で、傷をスキャンして測定し、皮膚形成を必要とする箇所に細胞を直接プリントすることができる」。
この装置は、患者の皮膚線維芽細胞と表皮角化細胞を使用し、ハイドロゲルと混合して、皮膚を3Dバイオプリンディングする。次に、印刷した皮膚で創傷部を覆うことによって、治癒速度を高める。
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皮膚移植に代わるポテンシャル
これまで、広範囲な創傷に対する最も一般的な治療方法は皮膚移植だった。しかし皮膚移植には困難な点が多い。3Dバイオプリンティングの技術が普及すれば、広範囲な創傷の治療を一変させる新しい選択肢となる。
皮膚移植をしたくても、必要な採皮ができないこともある。また、ドナーの移植片に対して患者の身体が拒絶反応を起こす可能性もある。皮膚移植は外科手術となるので、多くの場合は傷跡が残ってしまう。
「広範囲な怪我や火傷を負った患者に皮膚移植を施せば、瘢痕が悪化しやすいが、この技術には苦痛を伴う皮膚移植の必要性を低減するポテンシャルがある」と、WFIRM所長で論文共著者でもあるアンソニー・アタラ医学博士(M.D.)が述べる。
WFIRMが開発したバイオプリンターは患者本人の細胞を使用するため、本人の皮膚に最も近いものを作ることができる。初期実験の結果を見る限り、皮膚治療の効果的な方法として有望のようだ。
同じくWFIRMに所属する同論文共著者のジェームズ・ヨー医学博士(M.D.,Ph.D)は、「患者本人の細胞で移植すれば、治癒過程が迅速に始まる準備を細胞が整えるので、傷の回復を助ける」と述べ、「創傷を治療して癒合を促す方法はほかにもあるが、それらは皮膚形成に直接的には寄与しない」と続けた。
(この記事は、英国のテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」から翻訳転載したものです)