たとえば、1995年にGeneral Magicという企業がスマートフォンの初期型を開発しましたが、事業は上手くいきませんでした。タッチスクリーンはまだ最先端技術として実用化が進み始めたばかりで、プロセッサーの消費電力も非常に高く、バッテリーの性能も追いついていなかったためです。また、当時はEメールすらまだほとんど普及していない状況でもありました。
しかし、その数年後、同スタートアップの初期から活躍していた社員の1人であるTony Fadell氏がAppleに入社し、iPhoneの開発を主導することになります。
また、今年の3月に、Instacartという食料品の配達サービスを提供するスタートアップがシリーズIの資金調達を行い、時価総額が390億ドル(約4兆3000億円)に達しました。シリコンバレーの寵児としてかなり前から注目されていた企業ではありますが、今回のコロナ禍をきっかけに爆発的に成長しました。
この食料品配達ビジネスというのも、今でこそメジャーなカテゴリーですが、ドットコムブームのときは「根拠なき熱狂」の典型という扱いでした。
実際、Webvanという食料品配達サービスのスタートアップも、過剰に持ち上げられ、SequoiaやBenchmark、ソフトバンクなどの投資家から3億9600万ドル(約436億円)も調達したあげく、結局倒産しています。
その原因の1つは、インフラへ積極的に投資する方針があだとなってコスト構造が悪化し、事業の継続を困難にしてしまったことです。
しかし、より致命的だったのは、インターネットの普及や消費者行動が「ネットで食料品を買う」というサービス形態に追いついていなかったことです。つまり時代を先取りしすぎていたのです。
このように、優秀なチームや優れたアイデアは確かに重要ですが、良いタイミングに恵まれなければいずれも埋もれてしまいます。
そのため、Coral Capitalでも新しい投資機会を検討する際にはタイミングを判断基準に含めることが多く、「本当に今が、この企業を立ち上げるのにベストなタイミングか」という点について考えるようにしています。
具体的には、チームやアイデアにとって追い風となるような「変曲点」が訪れているかどうかを見ます。
まず、「テクノロジーの変曲点」があります。特定のプロダクトやビジネスの成功につながるような、1つもしくは複数のテクノロジーに関わるターニングポイントのことです。
例えば、タッチスクリーンやプロセッサーの高度化は、iPhoneの実現につながりました。そこからスマートフォンの普及がはじまり、より大規模な開発や生産、納品のサイクルが繰り返される中で、次第にその構成パーツの値段が下がり、機能も向上していきました。その結果、TeslaやNest、Oculusなどを含む多くの企業の成功へとつながったのです。
このように、ある変曲点の勢いが、連鎖的に他の変曲点を次から次へと生み出すことがあります。
スマートフォンの普及は「普及の変曲点」も表しています。インターネットにつながる強力なコンピューターが、いつでも使える手のひらサイズになって一般的に普及したことにより、世界中で様々な機会が爆発的に生まれました。
そうやってモバイルでインターネットやGPS機能が使えるようになったからこそ、UberやDoorDashなどのサービスも開発できたのです。
InstagramやSnapchatも、高機能カメラが搭載されたスマホの普及によって可能になりました。
そしてそれら全ての機能が揃ったことで全般的な利便性が向上しなければ、メルカリというサービスを実現することもできなかったはずです。