──ナラティブをつくることは、企業にどのようなメリットをもたらしますか。
ナラティブはステークホルダーを巻き込んだ共創ですから、従業員や取引先に多様性が生まれます。多様性を担保したまま、いかにオペレーションできるかは、企業の課題です。ナラティブはその答えの一つと言えるでしょう。
また、良いナラティブをもっていたら、その物語を根拠に、裁量がなくとも各自判断して動き出すことができます。10の新しい部署をつくるより、1つのパワフルなナラティブをつくる方が組織は効率的にまわるのです。
──主役を生活者に転換させた場合、ナラティブが画一化していく懸念はありませんか。企業が自分らしさを発揮するためには何が必要なのでしょうか。
本田:いわゆる「パーパス」と呼ばれるものですが、これに値する企業理念が限りなく固有のものであるというのが大前提です。パーパスはナラティブの起点であり、ナラティブはパーパスの実践です。そのため、ナラティブづくりは広報部や宣伝部だけでは難しく、経営層やコア事業の推進者が担当すべきだと考えます。
では、どのようにパーパスを定めれば良いかというと、「オーセンティシティ(正当性、真正性)」が重要です。オーセンティシティとは、「由緒正しい」という意味で捉えられがちですが、私は「信念と行動が一致していること」だと考えています。つまり、裏表がないこと。自分らしさであり、「なぜあなたでなければいけないのか」の答えです。オーセンティシティを理解していれば、似通ったナラティブが量産されることはありません。
──物語の主役が生活者だと、BtoB企業はナラティブをつくるのが難しいように感じるのですがいかがですか。
ナラティブアプローチにはBtoCとBtoBの区切りはありません。というのも、今の時代はバリューチェーンが複雑であり、BtoB企業であっても、その先のお客様、言わば「お客様のお客様」をも見据える必要があります。同様に、BtoC企業と言えども消費者との間には流通企業などが介在する。つまり、ほとんどが「BtoBtoC」なんです。
これは社内に向けたエンプロイー・リレーションズも同じで、その場合はBtoBtoEですね。いずれにしても、全体をどういう物語で包めるかがポイントです。
──その場合、生活者や消費者に向けた対外的なナラティブと従業員に向けた対内的なナラティブは分ける必要がありますか。
ナラティブを実施していくうえで、個別の施策、例えば従業員向けの社内報のようなものと消費者に向けた広告とでは、若干メッセージは変わってくるでしょう。しかし、ナラティブがたくさん存在するということはありえません。ひとつのナラティブの中に、従業員やお客様などのステークホルダーが全員組み込まれているというのが理想です。