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2021.07.15 16:00

創業136年目のブランディング、どうすれば? 老舗発酵食品メーカーに訪れたビッグチャンス

日々向き合わなければならない課題を経営者同士で共有し、手を取り合って解決に導く「お悩みピッチ」。2020年よりスタートした本企画が今年も開催されることとなりました。2021年第1回のお悩み人は、今年で創業136年を誇る老舗発酵食品メーカー、早川しょうゆみそ株式会社の早川 薫さんです。

早川しょうゆみそ創業以来、初めて訪れた“世界進出”というビッグチャンスを前に、「よい結果を残したい」という強い思いから、早川さんは世界で勝負できる「持続可能なブランディング」の必要に駆られています。







お悩み「持続可能なブランディングとは?」




早川しょうゆみそ株式会社は、1885(明治18)年に創業した発酵食品メーカー。その名の通り、醤油や味噌など発酵食品を製造・販売しています。

そんな一世紀超企業の7代目アトツギが、今回のお悩み人・早川 薫さん(32歳)です。「何か新しいことを……」と新商品を開発しました。

それが、今回のお悩みの核となる味噌パウダー「umami・so(ウマミソ)」です。

スパイスやシーザニングとして展開したいと考え、味噌の固定概念のない海外で先に売り出し、日本への逆輸入を試みようと2020年11月にリリース。翌年3月には海外誌上で紹介されるなど想定以上に事がうまく運びました。

その展開スピードは加速し、2022年にエリザベス女王即位70周年を記念するイギリスの出版社イベントへと招待されることに。創業136年目にして初めての大チャンス。頭をよぎったのは、「一発屋で終わりたくない……」という不安と、「このチャンスをものにしたい!」という強い思いだった、と早川さんは言います。

しかし、世界でよい結果を残すため、ブランディングの必要性に考えが至ったものの、果たしてどうすればよいのかと壁にぶつかりました。

早川さんのお悩みを聞いたお助け隊は、具体的な方法論をアドバイスしてくれるのかと思いきや、その答えは自ら導き出さなければならないことを諭します。そして、そのためにまず考えるべきこととして、「何を売るのか」と「持続させるために」という2つのポイントについて、論点が絞られていきました。

売りたいのは味噌か? 文化か?




最初に口火を切ったのは、佐藤繊維株式会社の佐藤正樹さん。「現段階で評価を得られているのは素晴らしい」と言葉を添えたうえで、山形の紡績・ニットのものづくり企業として世界の一流ブランドに認められるようになっていったご自身の経験から、ブランディングの注意点を伝えます。

佐藤さん
「まず、ブランディングは慎重に。第一印象はなかなか変えられません。それに、考えを煮詰めてから進めないと、ロゴなど形になるものと次第にズレてくる。私は自力でやってしまいましたが、面白いと感じるものをつくる外部の方と組んだほうが、よりよいものができるかもしれませんね」

続けて、エイグローブ株式会社の小粥おさ美さんから、「売りたいものは味噌?」と根底を覆す問いが投げかけられました。

小粥さん
「早川さんは味噌を知っている方をターゲットして、味噌を売ろうとしていますか? 海外展開はとてもいいアイデアですが、“味噌だけ”を売るのはもったいない気がします。味噌を知る料理業界や日系コミュニティに限ると、マーケットが少し小さい。それなら“知らない人”に売るのも面白いかなと」

地方の中小企業を専門に輸出コンサルタント事業を展開してきた小粥さんの目には、味噌パウダーはロングタームでのストラテジーで、“勝機がもてる”と映ったようです。

小粥さん
「日本では、『お味噌汁=お母さんの愛情』というイメージがあります。味噌を介して、そのストーリーを打ち出していくのはどうでしょう。パリなどではお弁当やおにぎりがはやっていますし、コラボも考えられそうです。こうした文化の醸成は時間がかかりますが、長期的なプロモーションから考えてもいいのではないでしょうか」

「まさに、一発屋で終わらせないアイデア。体験やシーンの提案はいいですよね」とファシリテーターを務める齋藤潤一さんが大きくうなずきます。続けて、地方創生とともに、日本の文化・アートを世界へと発信する羽田未来総合研究所の大西 洋さんに、「羽田で売り出したら面白いのでは?」と振り、話が展開していきます。

大西さん
「今、日本の食文化の原点に対して、海外から非常に多くの問いかけがあります。特に醤油、酢、そして味噌。私たちも海外の方々にこれらを売り出そうとしているところですし、地方創生プロジェクトでもそういった話は多い。マーケットから見たタイミングはとてもいいので、ぜひ一緒に取り組んでいきたいですね」

では、機は熟しているともいえる状況を、有効に使うにはどうすればよいのでしょうか。世界のアワードを数多く受賞した川越のクラフトビール「COEDO」を展開している株式会社協同商事 コエドブルワリーの朝霧重治さんが、具体的な方法を提示してくれました。

朝霧さん
「定石ですが、まずは展示会。インポーター目線だと、まだ誰も手を付けていない商品を独占的に扱いたいというニーズは確実にあるので、偶然の出会いに期待するのは正解だと思います。もうひとつ我々が使ってきたのは、コンテストです。認知を上げやすいですし、国内市場でも興味喚起のポイントとして有効に働きます」

加えて、「信頼できるディストリビューター(卸売業者)を見つけることも大事」だと続けます。

朝霧さん
「我々メーカーは海外の飲食店さんに売りに行ったとしても、モノがないことには進みません。いまでは取引しているディストリビューション(物流拠点)が25カ国になったのですが、初期のころは展示会などで自ら見つけに行っていましたね」


よい結果は求めなくていい




群の中に飛び込み、チャンスをつかむ。ビジネスを加速させる一手ですが、実現はそう簡単ではありません。ただ、手繰り寄せるために日ごろからできることがある、と言うのは株式会社大都の山田“ジャック”岳人さんです。

山田さん
「とにかく、自分で売り込む。海外だからといってすべてを商社任せにしてはいけないと思います。それに、自ら発信して味方を見つけることも重要じゃないかな。そうしていると、しかるべき時にしかるべき人が助けてくれるようになります」

工具の卸売業から、DIYの市場とカルチャーを醸成させてきた山田さんは「こうして早川さんのビジネスについてみんなで語り合うのも縁」と、自己発信と出会いの大切さを自身の人生を振り返りながら共有します。

山田さん
「この人がいたからいまがある、と思うことが多いんです。ぼくに投資してくれたいまの社外取締役は、もともと通っていたビジネススクールの先生でした。いま、身近にいる社員や、はたまた居酒屋で偶然隣に座った人が運命の人かもしれない。だから、日々の出会いは無駄にしない。ぼくがずっと心がけてきたことです」

自分で売り込むことに強く共感した早川さん。それもそのはずで、海外展開の業務はほぼすべて、1人で進めているといいます。この言葉に、かぶせるように声を発したのが佐藤さんでした。

佐藤さん
「我々のような中小企業だと、経営者がなんでも1人でやってしまうことが多いですよね。私もそうでした。でも、1人は専任のスタッフをつけたほうがいい。以前は、アシスタントをつけて私中心に海外進出事業を進めていたんですが、なぜかうまくいかなかった。でも、その社員を“担当者”として任命したら、急に回り始めたんです」

この言葉に、早川さんはハッとしました。「1人だと、どうしてもPDCAが回しにくくなりますよね」と、ファシリテーターの齋藤さんも同意します。

佐藤さん
「失敗や成功から生み出した答えって、自分をとても成長させてくれます。言うならば、社長DNA。これを後で教えるのは、システム化しても難しいんです。会話や契約など即断を要する感覚的な部分は特に。いま準備されているイギリスのイベントだけで終わりではないじゃないですか。これからもっと先がある。だからこそ、社長DNAを見せながらずっと共にする社員、スタッフを育てることは外せないと思います」

大西さん
「それに、私はイベントで良好な結果なんて出さなくてもいいのではないかなと思います。目指すべきところが見えているのなら、大事なのは、できるか、できないか。客観的な結果は、そういう意味であまり意識しなくてもいい。これだけの環境とチャンスです。想定とのギャップがあっても、そこに追いつけるチームや戦略を組むことに注力するのがよいのではないでしょうか」

さまざまなアドバイスが提示された後、ファシリテーターの齋藤さんが「早川しょうゆみそらしさって何でしょう? この味噌パウダーでユーザーにどんな体験を届けたいですか?」と早川さんに問いかけます。すると、当初のお悩みとは別の気づきがありました。


136年以降もつなぐ感動とチームづくりを




早川さんが思い出したのは、味噌パウダーの開発中に抱いた自分自身の感動体験でした。

最もうれしかった瞬間、それは「早川しょうゆみそ製の味噌でなければ、おいしくつくれなかった」と気づいた時だったということ。100年以上、綿々とつくられてきた味噌があるからこそ、成立するビジネスだと気づいたのです。

「この味噌パウダーを通じて感じてほしいのは、伝統の延長線上にあるものなんです。本当の意味で『伝統食』を伝えられる商品になるんじゃないか」と早川さん。136年目以降に、そして次の代へとつなぐバトン――これこそ、“らしさ”なのでしょう。

「開発を始めてから早5年、気づけば30代となって、いつの間にか立場も変わっていたことに、この場で気づかされた」と早川さんは言います。そして、チームづくりの観点が著しく欠けていたと、さっそく意識を切り替えました。

大きなチャンスを目の前にした老舗発酵食品メーカー7代目のお悩みを深く掘り下げていくと、本当の課題と自分の奥底に眠っていた答えが見えてきました。ピッチ終了後、早川さんは「気づいたら、メモを取っていたノートが真っ黒。悩みが一つクリアになると、自然と次の悩みが発生するんですね!」と、うれしい悲鳴を上げながら次のステップに足をかけたようです。

***

第1回セッションを受けて、お悩みピッチを主催するアメリカン・エキスプレス 須藤靖洋 法人事業部門副社長/ジェネラル・マネージャーは「組織、人材、商品コンセプト、やってみようのマインドセット、とても厚みのあるものすごいアドバイスがたくさん出てきたセッションでした」と、感動を伝えます。Forbes JAPANの藤吉編集長もまた、「英国のイベントに皆さんとぜひ行きたい。早川さんの活躍ぶりが非常に楽しみです」と、今後の展開に期待を膨らませていました。

山田さんが言う通り、お助けピッチという偶然の出会いを大切することもまた、早川さんのビジネスを飛躍させることにつながるでしょう。Forbes JAPANとアメリカン・エキスプレスは経営者同士の助け合いが広がっていくことを心から願い、これからもサポートしていきます。

第1回のお悩みピッチをビジュアル化すると…



【お悩み人】


早川 薫 氏(早川しょうゆみそ 企画戦略マネジャー/7代目アトツギ)
後継者としてのキャリア構築、発酵食品の市場拡大の先が海外にあることを予想し、単身アメリカの大学に1年留学。帰国後は関東の味噌蔵に就職、働きながら発酵学、食品工学を独学で研究。現在は自社の人事、企画、開発、営業を中心に担当している。
▶早川しょうゆみそ株式会社


【お助け人】


大西 洋 氏(羽田未来総合研究所 代表取締役社長執行役員)

元三越伊勢丹ホールディングスの代表取締役社長。現在は、羽田空港国内線旅客ターミナルの建設・管理運営を担う日本空港ビルデング、およびそのグループ会社・羽田未来総合研究所で羽田空港の活性化を担う。
▶羽田未来総合研究所


佐藤 正樹 氏(佐藤繊維株式会社 代表取締役)
アパレル会社勤務を経て、1992年に佐藤繊維に入社。独自のモヘヤ糸の開発などの川下戦略を推進し、その品質の高さは世界から注目されるようになる。2005年、4代目として社長就任。
▶佐藤繊維株式会社


山田 岳人 氏(株式会社大都 代表取締役)
大学卒業後にリクルートに入社、6年間の人材採用の営業を経て大都に入社。2011年、大都の3代目として代表取締役に就任。一般社団法人日本DIY・ホームセンター協会が認定する「DIYアドバイザー」の資格をもつ。
株式会社大都


朝霧 重治 氏(株式会社協同商事 コエドブルワリー 代表取締役 兼 CEO)
日本のクラフトビール「COEDO」のファウンダー・CEO。川越産のサツマイモから製造した「紅赤-Beniaka-」や「COEDO」を通じて、武蔵野の農業の魅力を発信している。
▶株式会社協同商事 コエドブルワリー


小粥 おさ美 氏(エイグローブ株式会社 取締役会長/創業者)
大手自動車メーカーでの欧州進出プロジェクトに従事後独立し、企業向け翻訳通訳を始める。地方中小企業の海外輸出コンサルに特化したエイグローブ株式会社を2013年に設立し、現在は会長を務める。
▶エイグローブ株式会社


【2021年お悩みピッチファシリテーター】


齋藤 潤一 氏(一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 代表理事/クリエイティブディレクター)
米国シリコンバレーのIT企業でブランディング・マーケティングディレクターを務めた後、帰国。東日本大震災を機に「ビジネスで地域課題を解決する」を使命に地方の起業家育成を開始。2017年より宮崎県児湯(こゆ)郡新富町役場が観光協会を解散して一般財団法人こゆ地域づくり推進機構を設立する。
▶一般財団法人こゆ地域づくり推進機構


そう、ビジネスには、これがいる。
アメリカン・エキスプレス



Promoted by アメリカン・エキスプレス / Text by 中村大輔 / Infographic by 渡辺 祐亮, cocoroé / Edit by 千吉良美樹

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