話を聞いたのは、小型ニオイセンサーの開発で注目を集めるベンチャー企業、アロマビット代表の黒木俊一郎だ。2018年には、シリコンバレー最大級のスタートアップイベントで、世界80カ国以上、7万6000社のなかからトップ50に選出された同社。なぜいまニオイのテクノロジーに、これほどまでに注目が集まるのだろうか──。
機械の鼻とは?
第1回では、人間の鼻がどのようにニオイを感じるのか、その仕組みを紹介した。
人間の鼻には、およそ300から400種類のレセプターがあるといわれている。さまざまなニオイの分子が外気から飛んできて鼻に入ると、レセプターにそれぞれの分子がくっつたり離れたりするが、そのくっつき方や離れ方は分子によって全て微妙に異なる。その応答パターンを検知することで、生物はニオイを識別している。
アロマビットのニオイ識別センサーは、その仕組みを模して作られたものだという。いわば「機械の鼻」だ。
ニオイのパターンを感じ取るレセプター部分を物性を、変えたさまざまな機能性材料で作り、その下にあるセンサー素子と連動し、ニオイを判別。ニオイ分子のレセプターへの吸脱着パターンをAIに記憶させ、なんのニオイかを判別できるようにする。
アロマビットの小型ニオイセンサー。2021年から本格的な量産を行っている
ニオイセンサーというと、アルコール検知器などを思い浮かべるかもしれないが、厳密にはこうした検知センサーは「ガスセンサー」といい、ニオイセンサーとは根本的な仕組みが異なる。ガスセンサーは、例えばビールのニオイ分子のなかにエタノール(=アルコール)が入っているかのように、ニオイではなく特定の物質が入っているかを検知する「物質検知」を行うもの。一方でニオイセンサーは、エタノールが含まれた時のニオイをパターンとして認知するものを指す。
「歩いている時に、ふと花のニオイがしたら『花のニオイだ』と気づきますよね。でもそれは嗅ごうとしたから匂ったのではなくて、匂ってきたから花を感知したということ。それは『こういうパターンが来た時には、花が近くにある』と頭のなかで結びつけることで、花のニオイを認知しているということです。こうした前提からも、ニオイ識別センサーは人間の鼻の仕組みをそのまま模したものだと言うことができます」
黒木はさらに、ニオイ識別センサーの有用性についてこう語る。
「我々は人間は、ニオイの世界に生きています。ニオイを識別できる技術の本質は、ニオイという我々の周りの世界を可視化し、デジタル情報として扱えるようになることです」
ニオイの可視化でできること
では、「情報」としてニオイを扱えるようになると、どのようなことが可能になるのだろうか。まずはこの動画を見てほしい。
ニオイセンサーが一般にまで普及している近未来を想像したアロマビットの動画だが、ここに出てきたように収穫のタイミングや食品の可食期限をニオイで判断することは、すでに実際に行われているという。