ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、ジ・アスレチックは、NYTとの合併が両社のサブスクリプションビジネスを互いに補完し合うことから、NYTを合併の「有力候補」と考えていたという。パンデミック時に爆発的に伸びたNYTの購読者数は、直近の四半期では鈍化しており、NYT側も合併の恩恵を受けるはずだった。
今回の合併協議の頓挫は、ジ・アスレチックにとっての新たな挫折と言える。
今年初め、新興メディア「アクシオス(Axios)」とジ・アスレチックは、共同でSPAC(特別買収目的会社)を設立するための話し合いを終了させていた。アクシオスによると、Voxとジ・アスレチックの合併協議も頓挫したという。
2016年に設立されたジ・アスレチックは、これまで1億3950万ドル(約154億円)を調達している。最新の資金調達は2020年1月のシリーズDで、Crunchbase によると5000万ドルを調達し、評価額は約4億5000万ドルとされていた。
他のメディア企業が、ジ・アスレチックの買収に興味を示さない理由は定かではないが、筆者の推測では、同社が赤字であること、もしくは、わずかな利益しか生み出せていないことが原因だと思われる。ジ・アスレチックの2020年の売上は、8000万ドル程度とされており、ビジネスを成長させる方法を見つけるのは容易ではない。
その理由のひとつは、ウォルト・ディズニーのESPNや、ワーナーメディアのBleacher Report、スポティファイのスポーツ専門ポッドキャストのThe Ringerなどの大手が、コンテンツを無料で提供していることだ。それに対し、ジ・アスレチックはサブスクリプション収入のみで運営を行っている。
他のメディア企業と同様に、ジ・アスレチックもパンデミックから無傷ではいられなかった。2020年6月に同社は全体の8%にあたる、46人の従業員を解雇したが、これはスポーツのライブ中継が停止されたためだった。同社は、給料の減額や出張費の削減も実施した。
ジ・アスレチックには600人以上のスタッフがいるが、その多くは野球殿堂入りを果たした著名ライターのジェーソン・スタークのような、米国で最も優れたスポーツジャーナリストたちだ。当然のことながら、優秀な人材は安くはない。WSJによるとジ・アスレチックの経費は 「かなりの額」に及ぶという。