新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こすSARS-COV-2ウイルスの起源を巡る議論の潮目が変わったと考えられるのは、興味深いことだ。米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長をはじめとする専門家たちも、このウイルスが自然に発生したものだと「確信してはいない」と述べ、開かれた調査が行われることを支持している。
パンデミックの発生から1年半近くが経過した今も、自然界におけるこのウイルスの起源は特定されておらず、(媒介となる)中間宿主の動物も明らかにされていない。
さらに、最初に感染が広がった中国は、必ずしも積極的にこれらを解明しようとしていない。世界保健機関(WHO)は今年初め、専門家によるチームを武漢に派遣して調査を行ったが、実質的には何も新たな情報を得ることができなかった。
そこで、米国の調査チームが検討すべき基本的なことは何か、改めて考えてみたい。
ウイルス研究所の仕事
研究者たちは、病原体の構造やゲノム(遺伝情報)、感染する動物、感染経路、発病(病因)、研究のための感染動物モデルの開発など、病原体についてのさまざまな研究を行う。病原体が人に病気を起こす原因になると考えられれば、診断方法と治療法、予防法(ワクチン)の開発を目指す。
病気の発生をより適切に予測し、治療するため、研究者はいわゆる「機能獲得」実験も行う。米国立衛生研究所はこの実験を、「病原体の伝染性や病原性を高めること」と定義している。
このような研究は安全面での懸念を伴うものの、病原体がヒトとどのように関わるかについてよりよく理解し、パンデミックを引き起こす危険性について評価するといった正当な理由がある。一方、病原体の改変は、生物兵器の開発といった非平和的な目的でも行われている。