だが従業員の誰もがこの決定を歓迎したわけではない。ITニュースサイト「ザ・バージ」によると、約80人の社員がクックへの公開書簡で、オフィス復帰命令に対する不満を表明。「現在の方針は、私たちのニーズの多くに応えるには不十分だ」と指摘し、「私たちはほぼ完全にリモートで仕事をしつつ、アップルの評判通りの製品・サービスの質を提供す方法を習得した」と訴えた。
アップル以外でも、オフィス勤務への復帰に反発する動きは広がっている。ブルームバーグ・ニュースの委託で調査会社モーニング・コンサルトが実施した最近の調査では、回答者の40%近くが、リモートワークを選択できない場合は辞職を考えると答えた。
この数カ月の間に、多くの大手企業が勤務形態に関する今後の方針を発表した。マイクロソフトやグーグルを含め、多くの企業はアップルと同様、週2~3日のオフィス勤務を含むハイブリッド型を採用した。
一方で、投資銀行大手のゴールドマン・サックスやJPモルガン、そしてネットフリックスなどは、全従業員にオフィス勤務復帰を義務づけた。経営コンサルティング大手のマッキンゼーが企業幹部を対象に実施した調査によると、10社中9社がリモートワークとオフィス勤務のハイブリッドを予定しているという。しかし中にはスポティファイやツイッターのように、従業員の遠隔勤務を「恒久的に」認めるとした企業もある。
仕事に関する情報を匿名で投稿できるアプリ「ブラインド(Blind)」が、アップルやアマゾン、マイクロソフト、グーグル、フェイスブック、ゴールドマン・サックス、JPモルガンなどの大手企業45社の従業員3000人を対象に行ったアンケートでは、恒久的な在宅勤務の権利と、年収で3万ドル(約330万円)分の昇給のいずれかを得られる場合、どちらを選ぶかを聞いた。
結果、在宅勤務の継続を希望する人は64%に上った。45社のうち、3万ドルを選択する従業員の方が多かったのはJPモルガンとクアルコムの2社だけだった。
この結果に驚く人もいるかもしれない。調査対象となった会社はどれも人気企業で、入社はかなり難しい。外の人間から見れば、こうした企業にかなりの努力を経て入社した従業員は喜んでオフィス勤務に戻るだろうとも思えるが、実際はそうではないのだ。
アップル社員による今回の書簡や、アンケート結果、そして世間の風潮に鑑みると、遠隔勤務の継続を非常に強く望んでいる従業員の割合は大きいことがわかる。