地元住民を含め、寺院の訪問者は今後、これまで無料だった寺院への入場に、料金の支払いが必要になる。個人の礼拝や祝い事、ミサなど宗教的な訪問は今後も無料だ。
寺院が苦境に陥った一因は、水害の悪化だ。ベネチアは2019年11月、観測史上2番目に大きな高潮に見舞われ、水位は1.87メートルにまで上昇し、市内の80%以上が冠水した。
サンマルコ寺院の拝廊は同市で最も低い位置にあるため、浸水被害を受けやすい。19年11月の高潮では特に被害が大きく、1日2、3回浸水する事態が3週間近くにわたり継続。「1日で20年分老朽化した」とされ、被害額はおよそ3億ユーロ(約400億円)と推定されている。
こうした高潮は当面、防止できない見通しだ。同市では、潟の入り口に設置した門を引き上げることで高潮を遮断する「モーゼ」と呼ばれるシステムが導入されたものの、現時点では水位予報が130センチ以上の場合しか作動しない。寺院の拝廊は水位66センチメートルで浸水するため、これでは不十分だ。
定期的な保全を続けつつ修復活動も行うため、サンマルコ寺院の管理団体は入場料徴収の必要性を感じていた。チケットは3ユーロ(約400円)で、主祭壇の後方にある有名なパラ・ドーロを見るには追加で7ユーロ(約900円)が必要となる。
サンマルコ寺院の遺産保護を監督するカルロ・アルベルト・テッセリンは「私たちは現在、寺院の開放を続けるためだけに1カ月100万ユーロ(約1億3000万円)の損失を出している」と説明している。これには、1日3回のミサの費用や従業員への支払い、日々の清掃活動、日夜の警備活動などの費用が含まれている。
新型コロナウイルスの流行により、サンマルコ寺院は数カ月間閉鎖を余儀なくされ、併設の博物館や鐘楼、パラ・ドーロのチケット収入も絶たれていた。1月以降、推定400万ユーロ(約5億3000万円)のチケット収入を失ったことになる。訪問者の数は現在200人までに制限されており、運営側は維持費を捻出するため少額の入場料を徴収しなければならなくなった。
ただテッセリンは、入場の有料化が永続的なものではない可能性を示唆。「まずはもう一度、息がつけるようにすることが必要。その後もしかしたら、また無料で見学できるようになるかもしれない」と述べた。