ロシア軍特殊部隊も実践する「逆境に負けない」心と思考の作り方(前編)

システマ東京代表で公認システマインストラクターの北川貴英(photo by Daisuke Taniguchi)


システマ流、危機を乗り越えるための4原則とは?



photo by Daisuke Taniguchi

では、システマでは実際にどんなことを学ぶのだろうか。武術である以上、もちろん、徒手による打撃術や関節技、武器術などを習得するトレーニングが用意されているのだが、その核となる原則はやはりメンタルに働きかける効果があるものだ。

「システマのすべてのトレーニングに共通するのは、どんなときでも自分の持てる力を十分に発揮できる状態をキープすることです。あらゆる危機を乗り越えるためには、それが一番確実な手段となるからです。

その実現に向けて、システマでは、『呼吸』『リラックス』『姿勢』『動き続ける』の4つの原則を立てています」(北川氏)

1. 呼吸


まず「呼吸」とは、システマにおいて最も重要視される原則だ。適切な呼吸は、心身を健康にする効果があり、呼吸そのものの変化を自覚するだけで、自分自身を客観視する手助けになるという。

「私たちは恐怖や怒りといった感情に直面したとき、無意識に体が力み、視野が狭くなり、思考は浅く偏ります。そうしたときにすべきことは、自分が緊張していることに気づくこと。この気づき自体が、負の感情に取り込まれずに自らの意思を保つきっかけとなるからです。そのために必要なのが、呼吸の観察です。心や体に緊張が生まれているときには、呼吸が浅くなったり、詰まったりしているもの。観察によりこの事実に気づき、元の呼吸に整えることで、心や体を落ち着かせる効果があります」(北川氏)

2. リラックス


呼吸と並んで大切なのが、「リラックス」だ。筋肉の緊張は体を硬直させ、視野を狭くし、判断力を低下させるという。そのため、システマでは動作の妨げとなる緊張をなくし、スムーズかつ自由に体を動かせる状態を目指している。

「負の感情には必ず体の緊張がともないます。そのため筋肉をリラックスさせることは、そのまま心のリラックスへとつながっていきます。体に意識を向けて、自分がどのように緊張しているかを確認し、緊張を見つけたら、動かしたり、ほぐしたりしてみましょう。そうやって心と体の本来の関係性を取り戻すことは、現代人にとって非常に大切です」(北川氏)

3. 姿勢


また、自然で心地いい「姿勢」をキープすることも大事な原則だ。いずれかの方向にバランスが崩れてしまうと、体に緊張が生まれてしまう。前後左右、どの方向にも偏らない、真ん中の立ち位置が構造的にも強い、あらゆる動きに対応できる状態といえる。

「姿勢には、その人の精神状態が如実に現れます。なぜなら、筋肉の緊張と感情には密接なつながりがあるからです。たとえば、猫背の人はどこか弱々しい印象を受けませんか? もし、普段の生活で自分の姿勢が崩れてしまっていたら、背筋をまっすぐ伸ばしてみてください。視野が広がり、気分もリフレッシュするはずですよ」(北川氏)

<システマ的心地いい姿勢の見つけ方>



photo by Daisuke Taniguchi

:まずは左右に、そして前後に重心を移動させることで、体のどの部分に緊張が生まれたかを確認する。この緊張が、バランスのとれた姿勢をとるための目安になる
:先ほど確認した緊張がどこにも生まれない位置(真ん中)を探す。背筋は頭上へとまっすぐ伸び上がり、足の裏には満遍なく力がかかっているはずだ

4. 動き続ける


そして、「動き続ける」とは、思考や感情、体の動きを止めることなく、心身とも常に動いている状態にあることを意味している。その真意は、変化し続けることこそ、恐怖心にとらわれない唯一の方法だからだ。

「世の中には『諸行無常』や『転がる石には苔が生えぬ』といった変化の大切さを説く思想は多くありますが、システマの『動き続ける』はより現実的な心身の使い方として捉えています。これまでにやったことのない動きや、やろうとすら思わなかった動きをしてみることは、精神の自由を手にすることとつながっていきます。たとえば、仕事に行き詰まったら、スクワットやストレッチをして体を動かしてみてください。新しい発想が生まれてきたりするものですよ」(北川氏)

システマが掲げる4原則は、非常にシンプルで、どれも日常生活に生かしやすいものばかりだ。しかも、これらはそれぞれが独立しているのではなく、お互いに共鳴し合うことで、心身のあらゆる面を向上させるシステムとして稼働している。

「もし、何かうまくいかないことがあったときは、この4つの原則のどれかが崩れていないか確認してみてほしい」と語る北川氏。その崩れを見つけ、整えていくことで多くの問題は解消できるという。
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text by Jun Takayanagi(パラサポWEB)

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