4月24日発売のForbes JAPAN6月号では「新しい働き方・組織」論を特集。それぞれ異なる方向性で進んでいたように見えた議論が、コロナ禍の新常態にリンクをしはじめた。本誌掲載記事から、人材開発支援を手がける「エール」が推薦する3社と、同社が考える「聴く」ことの重要性をお届けする。
「耳を傾ける」をすべての起点に|サンリオエンターテイメント
自分のなかにあるさまざまな声に積極的に向き合う「対話的自己論」を、50歳を超えて入学した大学 院時代に学んだ、サンリオエンターテイメント代表取締役社長の小巻亜矢。
「経営者が考えるべきは経営論、それを支える組織論、その土台となる自己論だと思います。まず、自分自身の声を、そして、社員、アルバイト、お客様の声を聴く。これは事象の本質を探究する作業です。好奇心を失ったら経営はできません」
小巻は、ハローキティをはじめとした、キャラクターたちに会えるテーマパーク「サンリオピューロランド 」をV字回復させたことで知られている。同施設に最初に赴任した2014年にまず行ったのが、「聴く」こと。社員たちに仕事に対して、どんな感情をもっているか、どんな価値観をもっているかを聴いた。
「なぜ、業績が苦しくてもやめなかったのか」「いままででいちばん大変だったことは何か」「いちばんうれしかったことは?」
社員やアルバイトがピューロランドにいちばん期待をしてくれる顧客。そう位置付ける小巻の姿勢が、信頼関係を醸成し、対話する風土へとつながった。また、何がボトルネックで、何がよかったのか、社員の答えのなかから経営のヒントを見つけ出し、次々と改善を続けた。そして同施設は、若い女性を新たなターゲットに定め、イケメンたちが演じるショーや、キャラクターの“KAWAII”と歌舞伎がコラボした「KAWAII KABUKI〜ハローキティ一座の桃太郎〜」など、挑戦的な企画を次々と成功させる。14年に126万人だった年間来場者数は、18年には219万人にまで増えた。
そんなピューロランドも、コロナ禍で大きな困難にぶつかる。5カ月間の休館を余儀なくされたのだ。「ピューロランドは自分の居場所だという、お客様からの応援のお便りをたくさんいただいた。私たちはお客様に何を提供していて、これから何を提供できるのか。自分たちのパーパス(存在意義)をあらためて問い直す機会になりました」
ピューロランドが次に目指すのは、もっと深い部分でお客様に寄り添うテーマパークになること。そのひとつが、ハローキティによる「SDGsライブショー」などの社会課題へのアプローチだ。
「SDGsの『誰ひとり取り残さない』というメッセージは、『みんななかよく』というサンリオの理念と共鳴します」
小巻は「聴く」行為を社内外にバランスよく行う。企業や自治体とコミュニケーションをとり、指針を示していくのも社長の役割だという。
「SDGsは売り上げに直結するわけではなくても、社会に耳をすませて進む方向を示すのも私の役割ですから。難しい時代だからこそ、さまざまな立場の人の思考、感性に耳を傾ける。すべては好奇心をもって、聴くことから始めますね」
なぜ、徹底できるのか──。小巻は答える。「そうするのが好き、それしかできないからです」