ビジネス

2021.04.26 07:30

「聴き合う」ことが組織の新たな力を生む! サンリオ・アカツキ・トヨタの実践


発信より「聴く」が成長の原動力|アカツキ


「今日は朝からうれしいことがありました」「直前に終えてきた打ち合わせがうまくいかず、焦りを引きずっています」──。

ゲームを軸としたIPプロデュース企業アカツキの会議は大抵、そんな会話から始まる。本題の議論に入る前に、参加メンバー同士で感情を共有する「チェックイン」という習慣だ。

なぜ、そんなことをするのか。根底には「成長し、つながることで幸せを生み出す」という同社独自の組織哲学がある。CHROの法田貴之は言う。

「個としての成長が実現されても、孤立した環境下では心が動かないでしょう。仲間とのつながりのなかで苦楽や成長を分かち合えて初めて、社員は幸福を感じられる。それが、ユーザーを幸せにするエンターテインメントの創出にもつながる。例えるなら、人と組織は『土壌』、事業はそこに咲く『木花』です。両者の最適な循環関係をつくっていきたい」


アカツキCHRO(最高人事責任者)法田貴之

チェックインは、互いの心に耳を傾け合う「土壌づくり」の一例だ。

施策はほかにもある。例えば、24時間以内にあったよかったこと、新しい発見などをシェアし合う「Good&New」。コロナ禍の現在は部署ごとにオンライン化されているが、以前は社内のラウンジスペースで、社員が一堂に会していた。部署や役職の垣根なく、近くに居合わせた3〜4人同士が輪になって話す。そんな光景が毎朝のように見られたという。

経営陣がメッセージを伝えたり、各部署が直近の取り組みや学びを共有したりする「週次報告」も、一方的な発信では終わらない。全社員がオンラインでアクセスできる「分かち合いボード」に、感じたことや登壇者に伝えたいことなど、率直な思いが記名制で書き込まれる。

ビジネスシーンでは一般に、明瞭な方針や主張を示したり、巧みに交渉・調整して要求を通したりといった「発信力」が重視されやすい。だが、同社に息づき、その成長の原動力になっているのは「とことん聴き合う」文化だ。

「会議中に『モヤモヤしている』なんて口にしたら、眉をひそめられる職場のほうが多いかもしれません。けれどそのモヤモヤは、発信者が伝えようとしたことが『伝わっていない』サインかもしれない。本人一人では言語化しきれない違和感を、チームで分かち合って突き詰めたら、解決すべき本質的な課題にたどり着いたことも一度や二度ではないんです」
 
創業10年の節目を迎えた2020年、経営体制を刷新し、「創業者経営」から「チーム経営」へとかじを切った。具体的には、香田哲朗CEO、各事業のトップら10人から成るELT(Executive Leadership Team)を組織し、経営を推進。「聴き合い」の重要性は一層増している。「土壌づくり」の現状は半年に一度の組織サーベイで振り返り、「手入れ」を怠らない。

「仕組みを用意して終わりじゃない。『見える化』と対話を繰り返し、つながりのなかで未来を開いていく。組織と事業の有機的関係を実現するにはそれが大事です」
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文=加藤藍子、揚原安紗佳、フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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