マーケットデザインは「適材適所」にする仕組み。限られた資源を効率的かつ効果的に配分する。計算機科学の知見も使いながら、労働市場、教育・保育、オークション、災害・医療、企業内の人事配置といった分野で、「何/誰をどう組み合わせるか」の最適解を選び出す。
「これまではお金がまず指標になっていました。当たり前のようですが、社会にはお金をどうしても使えないような事情がある場合というのが非常に多い」(小島)
例えば、新型コロナウイルスワクチンの接種者の優先順位を決める際は、倫理的な判断が必要なので、単純に市場原理を用いることはできない。
「すべてに市場原理を用いるべきだと考える経済学者もいましたが、それは不可能です。やはり、人間の気持ちにある倫理的な価値は重要です。資本主義や現代社会で軽視されがちな倫理性とか公平性は、人の心の中にあるもので、まじめに取り合っていかなくてはなりません」
そのうえで、マーケットデザインが提供するのは、プラクティカルな物事の考え方だ。臓器移植制度では、マーケットデザインが一部使われている。諸外国で許されている「臓器交換」という制度だ。
腎臓病の患者がいて、家族が臓器をあげたいが血液型などの条件が合わないために移植ができないケースがあるとする。代わりに同じように腎臓病の患者の家族で、条件が適合する人が提供してくれるなら、お互いの家族の腎臓を「物々交換」できる。
同センターで問い合わせが多いのは企業の「人事配置」だ。意外にも、機械学習と膨大なデータを使ったAIではなく、従業員と職場のお互いの希望を聞き、アルゴリズムでマッチングする仕組みが支持を得ているという。「市場の発想も取り入れつつ、一人ひとりの希望をつぶさに見ることで、無駄を起こさず多くの人がなるべく幸せになる仕組みができると思います」
こじま・ふひと◎1979年生まれ、東京大学大学院経済学研究科教授。東京大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学部Ph.D.。スタンフォード大学教授などを経て現職。