脳はだませても、体はだませない。精進料理に学ぶプロセスの価値

「精進のゆうげ」にて。精進料理人の棚橋俊夫氏(左)

コロナ禍は私たちの食のありようを大きく変えた。買い物に出かけるのも億劫になり、つい手軽なインスタント食品で済ませたり、デリバリーやテイクアウトを多様してみたり。

こうした食生活の変化や運動不足による「コロナ太り」が問題視される中、3月、東京・九段下のkudan houseで、“健康的な食”について考えるイベント「精進のゆうげ」が開催された。

精進料理とは何か


腕をふるったのは、現在ZECOOW Culinary institute代表として世界各地の著名なレストランの指導も行っている精進料理人、棚橋俊夫氏だ。27歳の時に精進料理の道を志し、滋賀県の月心寺で高名な故・村瀬明道尼のもとで3年間、修行を重ねた。精進料理店「月心居」を営んだのち、京都の大学で教鞭を執り、2015年から、「野菜の力強さに惹かれて」沖縄に移住している。


プラザアテネにて、デュカス氏(右)と

多くのレストランの料理指導を行う棚橋氏だが、その仕事として特に知られているのは、フランス料理界の帝王とも呼ばれるアラン・デュカス氏のパリのミシュラン三つ星店「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」のリニューアルだろう。2014年、大規模な改装後のこの店の再出発は、フランス料理界に大きな驚きを与えた。

「肉を使わず、野菜と魚介、雑穀を主役にした料理」を提供し、地球環境にも人間の体にも負担が少なく、サステナブルな料理を長年追求してきたデュカス氏が行き着いたのは、日本の伝統的な料理とその料理哲学からもインスピレーションを得た新しいフランス料理だったのだ。

世界の著名なシェフたちを虜にする、精進料理の魅力とは何か。「精進料理」と聞くと、つい短略的に「野菜を使った質素な料理」と考えてしまうが、実は「精進」とは、魂を込めて努力する、心のありようのこと。精進料理とは、日々清められた空間で、食べ物の中でもっとも清浄で神仏に近い、野菜をいただく料理だという。



しかし、野菜がなぜ神仏に最も近いのか。その理由を棚橋氏はこう説明する。

「水と空気と光と土だけで、私たちの命をつなぐ糧となってくれる。しかも毎年毎年、文句ひとつ言わず。人間は欲がありギブ&テイクを求めますが、野菜はギブ&ギブ。見返りを求めず、与えるだけの尊い存在なのです」

それは、ブッダの生涯とも重なるという。「当時の僧侶は、必ずしも菜食ではありませんでした。托鉢(たくはつ)でいただいたもので命をつなぎ、どんなものでもありがたくいただくというのが仏教の精神です。『菜食主義者だから』と出された肉や魚を拒否することは、その精神に反するものです。ブッダの死因は、腐った豚肉による食中毒だと言われています。腐っていることには気づいていたかもしれませんが、心を込めて施されたものだと悟って受け入れたのです」
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文=仲山今日子

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