拡張した単一指標
より野心的な方向性としては、GDPを人間開発指数に拡張したように、指標をどんどん拡張していって、すべてが入っている全部のせ指標も考えられる。どういうことか。
図2を見ると、左側には指標を計算するための変数が入る。GDP 的な経済変数もあれば、SDGs的な環境変数もあり、そのほかにシェアや再利用、情報とかコミュニケーションなどだ。これらを全部組み合わせたすごく複雑な価値計算のための関数、アルゴリズムのようなものを考えることができる。
図2 新たな価値の指標
つまり、何万、何十万、何億という無数の全然違うタイプの入力変数があり、それを読み込んで、価値の指標を計算してくれる。我々がどれほど発展しているか、どれほど幸せかということを表す単一指標を発見するという問題だ。今のGDPとかSDGsのように、人間が人力でつくったごく単純な指標よりも、はるかに複雑な、データドリブンな指標が可能になる。その指標がどう計算されているか人間には理解できないほど複雑な指標計算アルゴリズムも考えられる。
最後に、結局、指標をうまくつくっても、しょせん指標は指標でしかない。つまり、別の指標にしても、何らかの偏りや狭さは生まれるだろう。指標には、何らかの意味での強者がつくり出した彼らの偏った世界観が価値観に反映されていく。
私たちが目指すべきは、何か別の価値をもち出すことではなく、「価値」という物差しを必要とせず、測ったり比べたりしないで済むような経済や社会を提案することかもしれない。では、何かを比べたり、測ったりしなくても済むようなかたちにどうやったら再設計できるのか。
考えられるのは、すべての経済活動を、経済活動の外側にあると思われている「贈与」に還元することだ。交換がすべて贈与になる世界。現在の技術を用いてそのような「測らない経済」はつくれるか、考えていきたい。
成田悠輔◎東京大学卒業後、マサチューセッツ工科大学(MIT)でPh.D.を取得。現在はアメリカでイェール大学の助教授、日本では半熟仮想の代表としてサイバーエージェント、ZOZOなど多数の組織との共同研究・事業に従事。