記事をこう書き出すといかにも唐突な感じがするかもしれないが、主催者のレコーディング・アカデミーがその夜早い時刻に、BTSの「Dynamite」がノミネートされていた〈最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞〉の受賞曲をあっさり発表したやり方には見合っているはずだ。
テレビの生中継が始まりもしないうちに、レディ・ガガとアリアナ・グランデの「Rain on Me」がトロフィーを奪取し、韓国の7人組グループによる記録破りのヒット曲を打ち破った。もっとも主催者側は、BTSのライブを一晩中これみよがしに流し続けて、視聴者を画面に引き留めようとした。
多くの視聴者がそれ対する不満をSNSにぶつけ、「番組がBTSとそのファンを人質にとった」というジョークが少なからず流された。この恥知らずの視聴率稼ぎは明らかに不成功に終わったらしく、バラエティ誌によれば、この夜の授賞式の平均視聴人数は800万8000人という救いようのないもので、グラミー賞の歴史のなかでも群を抜いて低い数字だった。
世界最大のポップ・グループに払われた「最低限の敬意」?
こんなふうに、2021年のBTSをめぐるグラミー賞物語は失望の結末になったが、これは予想されたことだった。レコーディング・アカデミーはまたしても、この世界最大のポップ・グループに最低限の敬意しか払わなかったのだ。
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実のところ、〈最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞〉を誰が取るかはたいした問題ではない。「Rain on Me」は万人受けするダンス・ポップ曲で、レコーディング・アカデミーの授賞基準にかなっている。筆者個人は「Dynamite」に受賞してほしかったが、「Rain on Me」にトロフィーが行くことにも十分納得はいく。真の問題は、レコーディング・アカデミーが今年度のノミネート曲を発表した時点から始まっている。
今年こそBTSがグラミー賞を受賞するだろうという期待は、「Dynamite」1曲だけがノミネートされたときに覚えた失望感でいくらかしぼんでしまった。レコーディング・アカデミーがファンをなだめるために取った懐柔策としか思えなかったのだ。BTS初のノミネート曲が、気まぐれな欧米の視聴者の好みに合い、英語の歌詞だけで歌われるディスコ・ポップ風のこの曲になったのは意外でも何でもない。
事実、ストリーミングやラジオの音楽番組、ティックトックのダンス動画でおびただしい回数、使われている。人を引きつけずにはおかない曲であり、BTSの画期的偉業であるのは間違いないところだ。それでも、この曲には彼らの持ち味である屈託のない無防備さが欠けており、音楽的繊細さもベストの出来とは言い難い。
「もともとわかっていたこと」
それに、BTSは2020年1年間に数多くの曲やアルバムをヒットチャート上位に送り出している。「Map of the Soul:7」と「BE」はどちらもアルバム部門の1位になり、収録曲のシングルでも、不安を呼び起こすエモトラップ・ヒップポップの「Black Swan」、多層構造のアリーナ・ラップの「ON」、パンデミック社会に希望を与えるバラード「Life Goes On」など枚挙にいとまがない。