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知っておきたいアメリカンポップカルチャー


番組にキャラクターとして登場したのは、前述のTOTOやマイケル・マクドナルドをはじめ、ケニー・ロギンズ、スティーリー・ダン、クリストファー・クロスといった面々。全員が人脈的に繋がっているロサンゼルス在住のアーティストであることに注目してほしい。つまり番組でヨットロックと定義づけられたのは、日本でいう西海岸産AORだけだったのである。

しかしこの人脈にこだわった人選が、ヨットロックというジャンルをムーヴメントへと押し上げた。番組が、TOTOがバックアップしていた時代のマイケル・ジャクソンもヨットロッカーとして扱ったことで、前述のディスコ〜ブギーと同時代のブルーアイドソウルとして聴かれるようになったのだ。

2005年6月にスタートした『ヨット・ロック』第1話は観客投票のトップ5に入ったものの、翌年6月に打ち切りに。しかしライズナーたちが自腹を切って作った4話を加えた12話がネット上にアップされ、YouTubeでも配信されると、まず同業者であるコメディアンに受け入れられた。

ビヨンセ
R&Bアーティストのソランジュと姉のビヨンセ(Getty Images)

深夜の帯番組『トゥナイト・ショー』の司会を務めるジミー・ファロンはヨットロックの魅力にハマり、クリストファー・クロスやロビー・デュプリーを番組に招いた。その際に彼らのバックを務めたのは、番組のハウスバンドでもあるヒップホップ・バンド、「ザ・ルーツ」であり、ヨットロックの真髄は彼らを介して現代のR&Bやヒップホップ・アーティストに伝えられていった。ちなみにビヨンセの妹で現代R&Bの最先端を行くアーティストであるソランジュは『ある愚か者の場合』を人生で最も影響を受けた楽曲と語っている。

いま一番イケてるコメディアンとされるジョン・ムレイニーとニック・ノールが、団塊世代の文化系老人に扮する舞台公演『オー、ハロー』の功績も見逃せない。彼らが劇中でやたらとスティーリー・ダンに言及したことで、ヨットロックがクールなものというの認識がは急速に広がっていった。


ウィーザーが2018年にカバーしたTOTOの『アフリカ』

こうした結果、ヒップホップとジャズを股にかけて活躍するベーシスト、サンダーキャットが自らのアルバムにマイケル・マクドナルドとケニー・ロギンスをゲストに招いたり、オルタナティヴ・ロックバンドのウィーザーがTOTO『アフリカ』をカバーするという現象が生みだされたのである。

つまりアメリカにおけるヨットロックとは、決してAORリバイバルではない。否定と再評価のプロセスを経て異なる視点から再構築されたジャンルであり、未来の音楽シーンへのヒントが詰まったポップ・ミュージックなのである。



連載:知っておきたいアメリカンポップカルチャー
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文=長谷川町蔵

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