ダンカンにうんざりしているアニーが次第にタッカーに惹かれていくのは、同じような虚無感を抱えているというだけではない。ずっと年上ながら不器用と無様を曝け出して、子供という「他者」と向き合おうとしているタッカーの姿勢に共鳴したからだろう。
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「変化を受け入れる」ということ
この作品の味わい深さは、「大人になりたくない大人、大人になろうと遅まきながら頑張る大人」という現代的なテーマ設定だけではない。どこにでもいそうな迷える大人たちを、さりげない描写を交えながらベタつくことなく軽妙なタッチで描いていくところにある。
たとえば、音楽関係者から送られてきたタッカーのデモテープを聴くのに古いプレーヤーが電池切れだったと知ったダンカンが、「電池がない!」と喚いてベッドにいるアニーのところに来ると、彼女が仕方なくバイブから電池を引っこ抜いて渡す場面。
また、レストランで、ジーナとの浮気を許してもらいたいダンカンとその気のないアニーの前に運ばれてきた皿が、それぞれあべこべに置かれてしまい、撫然として自分たちで取り替えるシーン。
そして、家を出ていくことになったダンカンが鍵を鍵束から外して渡そうとして、なかなか外れず焦って手間取り、結局その場は諦めるシーン。
ちょっとした間の悪さ、ちょっとしたズレや遅れ、そうした日常によく転がっている何気ないシーンを極めて自然に、だが絶妙に配置することによって、歯車が噛み合わなくなった二人の空気感がおかしみをもってリアルに伝わってくる。
アニーの妹として登場するレズビアンのロズの恋人探しも、迷える大人たちの右往左往の中で興味深い点景となっている。
ひょんなことからタッカーがサンドクリフにやってきてからの展開は、コメディ的な要素も加わりつつ、相変わらず自分の世界にひきこもるダンカンと、これまで避け続けてきた外の世界に踏み出していこうとするタッカーの違いが際立っていく。その中でアニーは、自分にも決断する時が来ていることを知る。
大人になるとは、いくつになっても変化を受け入れ、「他者」と共生していこうとすることなのだろう。
連載:シネマの女は最後に微笑む
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