また、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)にかかった後、長期にわたって後遺症が続くこと(「Long Covid」と呼ばれる)にも、腸内細菌の不均衡が関連している可能性があるという。
ヒトの腸内に存在する細菌の種類や量(腸内フローラを形成)が、がんや感染症、自己免疫疾患など、さまざまな病気と戦う力において重要な役割を果たしていること、さらには精神疾患のリスクにも影響を及ぼしていることが、過去の研究結果で示されている。
Covid-19症状は人によって異なる
Covid-19のパンデミックが発生して以来、SARS-CoV-2ウイルスに感染した場合の反応には、人によって非常に大きな違いがあることが伝えられてきた。大半の人が軽症から中等症にとどまる一方、なかには重症化し、入院を必要とする人もいる。
Covid-19が重症化するリスクについては、年齢や性別、人種・民族、持病の有無など、影響を及ぼしているとみられるいくつかの要因が特定されているものの、説明が難しい理由で重症化している人たちもいる。
重症化するかどうかを分ける要因の一つが、SARS-CoV-2への感染に対して、免疫系が過剰反応、「サイトカインストーム」を起こすかどうかだ。この反応が、呼吸困難や過度の炎症による複数の臓器の損傷などを起こし、重症化につながる要因となっている。
善玉菌と症状に関連性?
細菌叢の研究が専門の香港中文大学の黃秀娟教授と研究チームは、腸内フローラのバランスが崩れていることが、重症化を招く可能性について調査を行っている。
軽症から重症までの感染者100人と、感染していない78人から採取した糞便サンプルを調査。それぞれの腸内の微生物の種類と数を分析した結果、感染者とそれ以外の人の腸内にある微生物と量には、明確な違いがあることを確認したという。
また、重症者は軽症者と比べ、腸内フローラのバランスがより大きく崩れていたことも分かった。黃教授は、「免疫の防御機能を調節していることが確認されている善玉菌が不足していた」と説明している。
抗生物質の使用の有無や年齢など、腸内フローラの構成に影響を与える可能性がある要因を考慮すると、重症化と(善玉菌の)フィーカリバクテリウム プラウスニッツイ(フィーカリ菌)、ビフィドバクテリウム ビフィダム(ビフィズス菌)が少ないことに、有意な関連性があることが示されたという。
研究チームはそのほか、血液サンプルを調査。善玉菌が少ないほど、炎症が起きているときに血中に現れるタンパク質のレベルが上昇していることを確認した。
チームはその他、こうしたバランスの崩れた状態はCovid-19からの回復後も続くのかどうかを調べるため、感染者の一部について、回復したと判断されてから30日の追跡調査を行った。その結果、フィーカリ菌もビフィズス菌も少ないままであることを確認したという。
これらの結果は観察研究によって得られたものであるほか、腸内フローラは多くのものに影響を受けることから、別の研究による裏付けが必要であることは確かだ。だが、黄教授と研究チームは、マイクロバイオームの不均衡が継続していることが、いわゆる「Long Covid」の一因となっている可能性があるとみている。
教授と研究チームは、感染者の善玉菌の状態を変えることによってSARS-CoV-2感染への反応を改善し、回復時期を早めることが可能かどうかについても、研究を行っている。