それから何時間待っただろうか。ところどころ錆びついたバスがやってきた。その時も、特に感情の変化はなかった。バスが来たので、ただ乗るだけ。そして、次の目的地にただ向かうだけ。環境にあらがってはならない。与えられた立場で努力することは必要だが、大きな流れには逆らわず、身をゆだねていればしかるべき位置に収まる。このことを、感覚的に理解できた経験であった。
流れに逆らった「不自然なマーケティング」からの脱却
ひるがえって、今のコロナ禍を考えてみよう。企業や人々が「早く以前の暮らしと社会を取り戻そう」と考えている気がしてならない。しかし、もう時代が戻ることはない。では、私たちはこれからどうすべきか。
端的に言うと、「流れに逆らうな」「自然体でいよう」ということである。パンデミックによって世の中が大きく変わったことは疑いのない事実だが、あらかじめ予測されていた変化も多くある。「時代が10年進んだだけ」。こう考えると、スムーズにマーケティングを展開できる。
悪手の最たるものは、変化の波にあらがうことだ。そもそも平成の時代は、日本全体が過去の栄光にしがみつき、外的環境が変化しているのに見て見ぬふりをしてきたようだ。業者から名簿を購入し、かたっぱしからDMを送り付ける。莫大な広告予算をかけて、一気に刈り取る。商品・サービスが必要ない人に対して無理に営業をかける。こうした「流れに逆らった不自然なマーケティング施策」を展開してきたわけだ。
しかし、パンデミックによって、いよいよ本質的なマーケティングに取り組まざるをえない状況となった。
筆者はコンテンツマーケティングのコンサルタントとして活動しているが、この変化の波、流れに乗ることが何より大切だとつくづく感じたこの1年であった。DXにしてもDtoCにしても、コロナ禍で突然登場したように感じるかもしれないが、日本においてはもう何年も前から必要性が叫ばれていた。それらを、コロナ禍の文脈でとらえなおしただけなのである。
筆者の知人が勤めるあるメーカーは、パンデミックの足音が聞こえてきた2020年3月の段階で、BtoBにある程度見切りをつけ、BtoCに多大なるリソースを注いだ。結果、前年とほぼ同じ売上高を確保した。業界の苦境が叫ばれる飲食店や宿泊施設の中には、ターゲットを変えることで一定の売り上げを維持しているところもある。
いずれのケースも、新型コロナウイルスの感染拡大に端を発した、外的環境の変化を受け入れた結果である。SWOT分析をはじめとしたマーケティングのフレームワークに、再度取り組んだことは容易に想像できる。これこそが「流れに逆らわない」ということであり、コロナ禍におけるマーケティングのベストプラクティスといえるのだ。
インドにすっかりのめり込んだ筆者は、旅の翌年、再度インドを訪れている。大学院でのつらい研究からの、いわば逃避行である。そこには、変わらず自然体のインド人の姿があった。コロナ禍のいま、マーケティングに最も必要なのは、インド人のような「自然体に由来するたくましさ」なのだと強く思う。
連載:世界を歩いて見つけたマーケティングのヒント
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