ビジネス

2021.01.26

映画も建築も、「共感する未来の理想像」宮田裕章x河瀨直美x藤本壮介鼎談


対話から生まれたアイデア


藤本:このアイデア自体が、「対話」から生まれたんですよね。以前我々プロデューサーたちが集まって、まだ何もない会場の視察に行ったことがありました。とても天気のいい日で、河瀨さんが天を仰いでふと「空がいいなあ」というようなことを言っていて。僕も「こんな大きな空、なかなか見る機会がないな」と思った。河瀨さんの言葉をきっかけに、皆が何となく空を見上げている景色が印象的だったんですね。

感じていること、考えていることは少しずつ違うかもしれないけれど、「同じ空」を見ている。万博でここに集まる世界中の人々も、ここに来られない世界の色々な場所の人々も「一つの空」の下に繋がることができるんじゃないか。そういう場を作れたらと思い、帰りの新幹線の中ですぐにスケッチを描いていったんです(笑)。

建築物を造ることは本質的には、そこにいる人々に何らかの行動や振る舞いを強制せざるを得ないというジレンマがあります。先ほど話したような、「全てが許容される場」にはならないことが多いのです。それでも、自分が造るものが「何を強制して、何を解放するのか」を意識しているかどうかは大きい。

宮田:集まった人々の多様な輝きを包み込むリングと、そこに包まれることによって「同じ空」を見上げることができるという一体感。テーマ事業と共鳴したそうした体験の中で万博が分断を乗り越えるイベントとなれば素晴らしいですね。また人と人、人と世界のつながりをデザインするという建築の可能性を感じます。

河瀨:すごく時代をさかのぼると、藤本さんが目指すような「寄り添う建築」って、すでに存在していたのかもしれない。


──3人が目指す、しなやかに変化する「新しい豊かさ」とは? 続きは1月25日発売のForbes JAPAN「『新しい価値』の設計者たち」特集にてお読みいただけます。


みやた・ひろあき◎2003年3月東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程、同分野保健学博士修了。09年4月より東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座准教授。14年4月より同教授、15年5月より慶応義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授。

かわせ・なおみ◎奈良を拠点に映画を創り続ける。代表作は『萌の朱雀』『殯の森』『2つ目の窓』『あん』『光』など。最新作『朝が来る』は、第93回米アカデミー賞国際長編映画賞候補日本代表として選出。2025年大阪・関西万博のプロデューサー兼シニアアドバイザーを務める。

ふじもと・そうすけ◎1971年北海道生まれ。94年東京大学工学部建築学科卒業、2000年藤本壮介建築設計事務所設立。作品に「SerpentineGallery Pavilion 2013」「House NA」「武蔵野美術大学 美術館・図書館」など。「大阪・関西万博2025」会場デザインプロデューサー。

文=加藤藍子 写真=ヤン・ブース ヘアメイク=今村麻里子 衣装協力=ユーモレスク

この記事は 「Forbes JAPAN No.079 2021年3月号(2021/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事