コンフォートゾーンを広げると、耐性が高まる
阪原:コンフォートゾーンとは何でしょう?
永田:これは私の言い方ですが、人間は、もともと自分の経験や知識からしかものが見えませんよね。これが狭ければ、居心地良い心の範囲が狭くなる。逆に、新しいことや人に遭遇すると慌てふためく。あるいは自分たちと違う人は怖い、よくわからないものは関わらないでいようということが多くなります。
阪原:よくありますね。
永田:コンフォートゾーンが広がるということは、自分と違う人や物事に対して心の許容量が増えるということです。そのためには、いろいろな違う人とか違う考え方をする人、違う話し方をする人、違う行動をする人──こういった人たちと接することです。今まで自分とは異質な人を3人しか知らなかったとしたら、それが10人、100人、1000人になったら、1000通りの違いがあるということを知る。そうすると、そのあとどんな人と会ったとしても、どんな状況になったとしても怖くなくなるわけです。
阪原:多様性に対する耐性が高まるということですね。
永田:そのとおりです。いろいろなウイルスに対して抗体ができるようなイメージです。抗体ができれば、人はすごく強くなりますよね。どこに行ったって暮らせるし、たとえば日本が経済的にだめになったとしたら、別のところに行って稼ぎに行ければいいしとなります。言い換えると、レジリエンスが強くなるということです。
阪原:僕は自分のキャリアを振り返って、最近気がついたことがあります。僕は最初に勤めた会社をやめ、アメリカの大学院に通ったあとシリコンバレーで友人のベンチャーを手伝っていました。海外にいたときは、コンフォートゾーンが広かった気がします。でも日本に戻ってくると、自分がどこか浮いてしまうことに気づいて、それに合わせようとしたかもしれません。合わせることはできていませんが(笑)。
ルソーの人生に見る、「マイノリティである」ことの絶対的な強み
永田:そういえば、阪原さんの本を読んで確信したことがあります。阪原さんはMBAを取得されたあとに、日本で今は映画を撮っていらっしゃる。阪原さんは、フランスの哲学者ジャン=ジャック・ルソーに通じる気がします。現代思想の第一人者のひとりですが、阪原さんの波乱万丈な人生は、ルソーに似ている気がします。
阪原:どんな人生なんですか。
ジャン=ジャック・ルソー (Getty Images)
永田:めちゃくちゃですよ(笑)。ジョン・ロック、トマス・ホッブスとともに社会契約論を提唱した哲学者ですが、ロックとホッブスはイギリス出身でオックスフォード大学出身。超エリートのお坊ちゃんです。しかしルソーは大学に行ってない。受からなかったので、彼の哲学はすべて独学です。小さい時に母親が亡くなり、父親ともすぐに離ればなれになり、養子に出され、若い頃からアルバイトをしながらいろんな本を読んで、アルバイト代を本につぎ込みました。いろいろな場所で女性の家を点々としながら過ごしていたようです。