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2021.02.04

「1000日で閉店」のラーメン店がボストンで長蛇、1日2時間営業で大成功の理由

「Tsurumen Davis」店主大西益央氏(写真提供:大西氏)

冒険家・植村直己は、「冒険で死んではいけない。生きて戻ってくるのが絶対、何よりの前提である」と生前に語った。世の中の冒険家はゴールすることが何よりも大切なのであり、これがまた難しいのである。

アメリカ・ボストンに2時間のみ営業を行うラーメン店がある。そして、1杯の価格は2000円と高額だ。この冒険は失敗なのか。書籍『なぜ、2時間営業だけでうまくいくのか?』(光文社刊)から紐解いた。


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「Tsurumen Davis」店主大西益央氏(写真提供:大西氏)

2018年4月にボストンに登場した「Tsurumen Davis」は、1日2時間のみの営業で、かつ夏休みはしっかり1カ月休業するという。そのためにラーメン一杯の価格を20ドル(約2000円)に設定している。原価率約10%だ。一般的な原価率が30%と言われている中で、なかなか無謀な挑戦にも思えるが、店主の大西益央は、そこに疑問を抱いた。

“原価率30%が一般的”とはなんなのだろう。彼の値段設定は、そんな業界のルールを疑うことから始まる。原価率を30%から10%に下げたい。そのためにできることがあると考えた。店の雰囲気や味の向上は言わずもがな。誰でも想像できる範疇だ。彼が選択したのは、「1000日で閉店する」「200日ごとにメニューを変える」だ。

1000日後には閉店することがあらかじめわかっていることで、お客さんにとって「いつか行く」をなくす。◯日後には閉店するので、「いまのうちに行っておかないと」と、なるのだ。1日2時間しか営業しないため、2000円のラーメンを60人に提供できれば、利益は担保できる。

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(写真提供:大西氏)

ラーメン屋を経営する上で、「密度の濃く本気度も集中力も上がる一番の方法」とは何かを考え続けた結果に至ったものだ。しかし、終わりを決めることで仕事に対して本気になれるメリットもあると本人も語る。今回のキーワードは「本気」である。

「本気ではなかった」


2007年、地元大阪市鶴見区でラーメン店「鶴麺」をオープンし、2010年に2号店「らぁ麺Cliff」(現「Tsurumen」)をオープン。2店舗を大阪屈指の人気店に育て、繁盛店として人気を集めた。しかし、早かった成功を得た代償に「変化のない日々」を受け入れる必要があった。

そんななか、大西は、ランチタイムが終了すると営業を従業員に任せ、飲み歩くことに。しかし、それさえも物足りなさを感じた彼は、念願のハワイ出店を決める。

これまで貯めた資金を持ちハワイに身を置き、覚悟を持ったオープンだった。ただ、これまでの成功が嘘だったかのようにお客さんが入らなかった。ハワイのお店を閉めた上で出店したノースカロライナも大失敗。自分を正当化するための逃げ場を作り、うまくいかない理由を自分以外のものにした。この頃の自分を振り返っては、「本気ではなかった」と反省する。
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文=上沼 祐樹 編集=石井 節子

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