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2015.05.05

四国の“創造的過疎地”で過ごす 濃密すぎる2泊3日




「人生のギアを一段上げる」をコンセプトに、さまざまなジャンルで活躍する都会の精鋭たちを集め自然豊かで文化の薫り高い日本の田舎で、多彩な知的&動的プログラムを実施する「echo camp series」。
その第2弾が、ユニークな手法の地方創生で知られる、徳島県神山町で行われた。
2泊3日、都会と田舎の知性と文化、肉体のマッシュアップで共鳴した「こだま」とは?


 生命が一気に胎動を始める山里の春の匂いは濃密だ。樹々が芽吹く森から、花が咲き乱れる草原から、輝く川面から、都会では決して嗅ぐことのできない、パワフルで根源的な匂いが鼻腔をくすぐってくる。
徳島県神山町。徳島空港からクルマでほぼ1時間、一見何の変哲もない山里の過疎の町に降り立った約50人のツアー一行。ツアー名は「echo campseries」。主宰者は中西玲人、アメリカ大使館で文化担当官補佐を務める人物だ。ツアーコンセプトは「人生のギアを一段上げる」。概要は、中西の言葉を借りるなら“情に厚くてインテリ(!?)”な、都会の多様なジャンルで活躍する精鋭を集めて、大自然と文化的な魅力のある地方へと遠征して共同生活を送り、そこで良質なフィジカル体験と知的セッションを重ねることで共感覚を生み出し、メンバー同士、そしてメンバーと現地の交流を活性化させるというものだ。

 ではなぜ神山なのか? 実はこの町にいま、世界中からアーティストたちが集い、IT企業が次々とサテライトオフィスを設立、文化やライフスタイルを発信する人々が次々と移住してきている。そのユニークにしてダイナミックな地方創生の手法が大きな注目を集めているのだ。その牽引役であるNPO法人グリーンバレーの大南信也理事長は、そのスタイルを“創造的過疎”と表現、行政に頼らないクリエイティブで持続可能な地方創生事業を続けている。そんな大南と神山の物語に感銘した中西が大南へラブコールを送り、結果ふたりが意気投合したことで、ツアーの目的地が神山に決定したのだ。
ツアーメンバーは実に多彩だ。日本を代表する大企業の中堅社員をメインに、官僚、起業家、社会起業家、アーティスト、クリエイター、マジシャン、学者、建築家、メディア関係者、そして学生まで。20代から50代、平均年齢36歳の精鋭たちだ。

 一方、プログラムもまた多彩を極めている。1日目には大南、中西らによるキーノート「神山の磁力、その本質」を皮切りに、企業のサテライトオフィス見学や地産地消ビストロでのパーティ、世界最高峰のクロースアップマジシャンによるマジック、キャンプファイアを囲んでのメンバーと移住組との交流セッション。2日目には雨乞の滝への早朝トレッキングやビジネスバレエ体験、地元で獲れたイノシシを食らうバーベキュー大会、最新ドローンによる上空からの記念撮影やキャンプ場のマッピング体験、キャンプファイアを囲んでの選抜メンバーによるプレゼンテーション、神山在住のミュージシャン宮城愛によるライブ、そして日本未公開映画の上映会。最終日は神山のアートめぐりにメンバー全員での徳島ラーメン、そして5円玉入りの大入り袋交換会で〆! この間メンバーたちは、大自然と文化の磁力に包まれ知的&動的な体験をインプットし、そこから生まれた知性と身体性を表現し交流することで新たなる共感覚を育んでいく。最後の大入り袋交換会での活発な交流は、東京で山ほど見てきたネットワーキングイベントのどれよりもダイナミックで、一体感を感じるものだった。

 大使館職員という本業がありながら、これだけのメンバーを集め、多彩なプログラムを実施するツアーを、ほぼひとりで考え運営する中西。聞けば儲けはないという。彼は何を見つめているのか?「“アート感覚”で異ジャンルをマッシュアップする、これが自分のワクワクドキドキの根源。その感覚をぼくが信頼する、これから日本をつくっていく人たちと共有したい。そしてつくった装置から新しい価値を生んでいくことは楽しく刺激になるし、ぼくにとって最大のインプットになるんです。これだけの素敵なメンバーの真ん中にいることは、それ自体にとんでもない価値がありますから」
ツアー中、常に感じていたのは、中西はもちろん、ツアー参加者も神山の受け入れ側も含めて、驚くほどに純度の高い集団という印象だった。“情に厚くてインテリ”な、極めて純度の高い集団から生まれる濃密な共感覚。もしかしたらその感覚は、近い将来その枠を広げて、日本社会に大きなうねりをつくっていく原動力になるのではないか? 宮城愛の透明な歌声に癒やされながら、キャンプファイアから立ち上る火の粉が満天の星空に同化するのをぼんやり見つめつつ、そんなことを考えていた。



大南信也/Shinya Ominami 
NPO法人グリーンバレー 理事長
1953年徳島県神山町生まれ。米スタンフォード大学院修了。
90年代より国際交流による地域再生を始動し、2004年にグリーンバレー設立。
「日本の田舎をステキに変える」をミッションに、“創造的過疎”による持続可能な地域づくりを進めている。


中西玲人/Akihito Nakanishi 
アメリカ合衆国大使館 文化担当官補佐
1974年大阪・心斎橋生まれ。14歳で渡英しケンブリッジやロンドンで過ごす。大学卒業後、マスメディアやギャラリーを経て2008年より現職。
文化戦略の立案と運営に携わり、分野横断的な企画を数多始動させている。職外では批評、文芸企画、展覧会なども手がける。専門は文化政策。

竹内大 = 文 生津勝隆、大月信彦 = 写真

この記事は 「Forbes JAPAN No.11 2015年6月号(2015/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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