クラウド会計ソフトで国内シェアトップのfreeeは、経理をはじめとしたバックオフィスの業務を自動化し、財務状況を分析するツールを提供している。同社は2012年の創業以降、中小企業を中心に事業を展開。現在も顧客数が年平均50%を超える成長を続けている。
同社は19年12月、東証マザーズに上場し、初日の時価総額がユニコーン企業(未上場で同1100億円)を上回る1259億円を記録するなど大型上場が話題となった。その後、直近決算では29億円の赤字にもかかわらず、株式市場からの評価はさらに高まり、現在では2795億円と倍増している(20年9月7日時点)。
その成長要因のひとつが、CEO佐々木大輔が話す「世界中のあらゆる事例を参照する」という姿勢だ。前職のグーグル時代、アジア・パシフィック地域で中小企業向けのマーケティングチームを統括した経歴を持つ佐々木の経営思想とは。
──時価総額の伸びをどう評価しているか。
時価総額は、特には意識していない。我々がKPI(重要業績評価指標)として重視するのは、会計ソフトをはじめ、人事労務、法人設立、プロジェクト管理など我々のプラットフォームを、どれだけの企業が使用してくれているか。この事業は「顧客の成功」につながればより成長する。利用する企業が増えれば増えるほど、社会により大きな価値を提供できていると考えるからだ。
──日本のスタートアップにはめずらしく、IPO(株式公開)時に国内だけでなく、海外投資家にも売り出しや募集をする、グローバルオファリングを行った。
上場プロセスのなかでも、海外の投資家とコミュニケーションをとることにはこだわった。その理由は、海外では多くのSaaS企業が上場し成功しており、投資家からの評価方法も確立、成熟してきている。彼らと対話をすることで、成長に向けたいいフィードバックをもらえ、かつ、我々にとって「いかに自信をもった経営をできるか」を問う機会にもなるからだ。彼らの目線や知見といったグローバルIPOの経緯で受けたインサイトこそ意味がある。
我々の事業は、日本企業をターゲットにしているが、メジャーリーグのように世界水準で評価を受ければ、より強い事業、そして企業になる。そのスタイルをつくりたかった。
我々が創業した12年、日本では誰も会計ソフトのクラウド化が起こると信じていなかった。一方で、シリコンバレーのベンチャー投資家は、我々の可能性を評価してくれていた。その背景には、シリコンバレーでは、すでにクラウド、SaaS事業で成功した企業が生まれており、(マーク・アンドリーセンの)「ソフトウェアが世界をのみ込んでいる」ではないが、あらゆる産業がデジタル化し、クラウド化していくというコンセンサスがあったからだ。世界と日本での視点には大きな隔たりがあったこともあり、我々は世界で評価される企業になるための経営体制、組織体制、ガバナンス体制を取ることに決めた。