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「まったく意外でした。意識していなかったけれど、経験の蓄積という自信が思いもかけず小さなエゴとなって、教え諭すというか、皆をやや上から見ていたかもしれない」とS氏はふり返る。

グーグルには方法、知見のシェアプロセスも徹底的にフラットにするのが常識、という文化があることに気づいた貴重な経験だった。

そして、「権限意識」について。グーグルでは上下関係や決済権限を前提に意思決定するのではなく、協業と多様性を前提にしたフラットな意思決定プロセスを重視しているという。

「たとえば新しいプロジェクトの立ち上げ時、『この話を決めるためにはあの人と、あの人を入れなきゃ』と考える。つまりステークホルダーをフラットなネットワーク意識で探索し、彼らをループイン(巻き込んで、アサイン)します。誰をループインするかを決める時、捨てるのが必要なのが、『意思決定の権限意識』ですね。オレが決める、決められる、という自分を中心にした意識はループインのプロセスには必要ない。代わりに、本当に必要な人材を、『役職や組織を横断したフラットな意識』でピックアップして、巻き込んでいくんです」

グーグルでは何よりも、意思決定権限をふりかざすと人がついてこなくなり「不人気」になる、とS氏は指摘する。「だからグーグルに入って、権限、オーソリティがたとえあっても、『あたかもないように』ふるまうことで、周りを巻き込み、チームの主体性とモチベーションを引き出す大切さを学びましたね」。

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Getty Images

「権限に基づかない影響力」とは


さて、「フラット」な意思決定が常識なグーグルで大切なのは、合意形成のプロセスだ。ステークホルダーを巻き込み、ネットワーキングをしていくことが何よりもキモなのだ。「コラボレーション」はグーグルの「社是」にもなっているくらいで、コラボレートできない人材は活躍しにくい。

そんなグーグルにおけるリーダーシップの考え方はユニークだ。

「グーグルでは、『influence without authority(権限に基づかない影響力)』によってこそ、人やプロジェクトをリードできる、と考えます」とS氏は言う。

「influence without authority」は米国のカリスマティックなセミナーリーダーであるアラン・コーエンらが提唱した思想。権限を駆使して人を動かすのでなく、存在そのもので影響を与えうるオーセンティシティー(真正性)を、自らのプロフェッショナルの能力として育てていく必要があるという理論だ。その真正性とはすなわち、人から信頼を置かれたり、頼ろうと思わせる知識量や経験、誠実さや度量を持っていることと言い換えられるかもしれない。

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Getty Images

そんな真正の「徳」を得ることは、出世して権限を得ることよりもさらに高いバーに違いない。だが少なくとも、「仲間への疑心」や「エゴ」、「権限意識」に伸びてしまいそうな手を、かわりにそちらへ伸ばしてみる価値はある。

そしてそれは、一度手に入れられさえすれば、リアルでもリモートでも、また、あらゆる「バリュー」が時事刻々と変化する21世紀の世界中どこにいても通用し、ビジネスパーソンとしてのわれわれを生かす力にはなりそうだ。

取材=石井節子

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