考察を進める足がかりとして、まず次の事実を確認しておこう。ジョージ・W・ブッシュ大統領は、もともとはテキサスの石油業者だった。そのブッシュ政権で副大統領を務めたディック・チェイニーは、油田サービス企業ハリバートンの会長兼最高経営責任者(CEO)だった。
この顔ぶれほど、石油業界寄りの政権も望めないだろう。ところが蓋を開けてみると、ブッシュ政権の2期8年の間、米国の原油生産量は毎年、前年割れすることになった。ブッシュが大統領に就任する前年の2000年、米国の原油生産量は平均で日量580万バレルだったが、ブッシュ退任前の2008年には500万バレルに減っていた。
そのブッシュのあとを継いで、2009年1月に大統領に就任したのがバラク・オバマである。気候変動対策を訴えて当選したオバマは、再生可能エネルギーの利用促進を目的とした政策を数多く実施した。石油業界に厳しい姿勢を示すことも多く、パイプラインの建設認可を遅らせたり、掘削を禁止する連邦政府所有区域を増やしたりした。
それでどうなったか? オバマの大統領就任から7年間、米国の原油生産量は毎年、前年比で増えた。米国の原油生産量は史上最速のペースで拡大し、歴代政権で最大の成長を記録した。オバマ政権の発足から7年間で米国の原油生産量は90%近く増え、天然ガスの生産量も急増した。
ここからどういう結論が導けるか。論理的に考えれば、大統領が石油市場に大きな影響を及ぼすことはない、というものになるはずだ。影響があったとしても、それが具体的に表れるには何年もかかる。
たとえば、オバマ政権下で原油や天然ガスの生産量が爆発的に増えたのは、水圧破砕による開発が進んだからだが、この技術はブッシュ政権のもとで急速に発展したものだった。生産量はオバマの政策「にもかかわらず」増えたのであって、オバマの政策「のおかげで」増えたのではない。