私が企業の「壁」に対して初めて疑問を感じたのは、1996年に富士通からソフトバンクに移り、営業として多くのSIベンダー(別称:システムインテグレーター)と仕事をするようになったときのことだ。
本来であれば、SIベンダーの使命とは、顧客が必要としている情報システムを導入することで、彼らのビジネスの発展に寄与することだ。そしてそのためには、たとえ競合企業と手を組んででも、顧客のことを第一に考えて仕事をするべきだと思う。
しかし当時、私の周りにいたSIベンダーたちは、顧客を自社製品で固めさせ、囲い込むことを優先しているように見えた。
私はときに「競合企業と協力した提案にすべきではないか」と説得したこともあったが、当時は「競争相手と組むくらいならば、商談を落とした方がましだ」と豪語する人もいる状況だった。私の方が「非常識な提案だ」と叱られたこともある。今では随分と変わってきているようだが、このとき、企業のあいだには紛れもなく「壁」があるということを痛感した。
壁の中からは壁の存在に気がつかない
企業だけでなく、さらに業界のあいだにも大きな「壁」はそびえている。書籍のEC企業「イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)」を1999年に立ち上げたときのことだ。ソフトバンク、ヤフー、セブン−イレブン、トーハンの合弁会社ということで、話題性もあり注目を浴びた。しかし出版業界には不評で、当初は彼らからの協力は殆ど得ることができなかった。
当時は「インターネットなんて単なる一過性の流行でしょ」とも言われていた時代。「本は書店で買うのが当たり前。余計なことをするな」と追い返されることもあった。それから、会社を出版の街である神保町に移転し、彼らの懐に飛び込むことで、段々と協力を得ることができるようになったが、それまでには非常に長い時間を要した。この時ほど、業界の「壁」を感じたことはない。