ビジネス

2020.11.10 10:00

業界の「壁」をどう乗り越えるか デジタル化の波の捉え方


また一つの組織の内部でも、巨大な壁に悩まされることはある。2006年からセブン&アイで働いていた際には、「あなたは知らないと思いますが、商売というのは……」という言葉を何度も聞かされた。当時、ECが本格化していくという追い風もあり、私たちの部門の実績があがってくれば、段々と協力してくれる人も増えたが、彼らからすれば、IT業界出身者は異質で理解しがたい存在だったのだろう。

私はこれらの経験から、新しい挑戦をするときには必ず、「壁」のなかで既得権益をもつ者から、大きな抵抗を受けるということを学んだ。

壁は新しい価値を生むチャンスを奪う



壁を乗り越えるためには、外から業界を俯瞰してみることが必要だ(Unsplash)

自分を取り囲んでいる壁には、壁の中にいるときは気がつきにくいものだ。私も新卒で入った富士通にいた時には、若かったせいもあり、企業の「壁」などというものにあまり疑問に感じることはなかった。「壁」の存在を人よりも強く意識することができたのは、一つの会社や業界にとどまらず、外から業界を俯瞰して見ることができたからだと思う。

新しい挑戦にはいつも、企業や業界の「壁」が立ちはだかる。それはきっと、人間の防衛本能が関係しているのだろう。人は安定を好む。それゆえ、新しいものが自分の存在を脅かすと判断すれば、それを排除しようとするものだ。しかし壁というものは、そうであるが故に、他者と切磋琢磨し、新しい価値を創造するチャンスをも奪ってしまうことがある。 

これからデジタル化の波は、大きなうねりとなって日本企業に押し寄せてくる。その際に、既存の安定した価値を守るために「壁」を高くして時代から取り残されるのか、ときにはリスクも負いながら波に乗るのかは、私たち自身のこれからの選択にかかっている。

デジタル化は決して悪いことではない。それに前向きに取り組む人々にとっては、新しい価値を生みだすチャンスだといえる。自らを取り囲んでいる壁にいち早く気づき、壁を壊して、積極的に外の人々と協調して、新しい価値の創造に取り組んでいけば、きっと今よりも豊かな時代に恵まれることだろう。


連載:デジタルで人生を豊かにする「デジタブルライフ」
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文=鈴木康弘

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