ティカルが栄えたユカタン州北部は、緑豊かな植生にもかかわらず、季節的に砂漠になっている。夏の大雨は石灰岩の岩盤を溶かし、カルスト洞窟や地下河川を形成する傾向があるが、水が陸地を流れる機会はほとんどない。
そのためマヤ人たちは飲料水へのアクセスに苦慮していた。彼らは雨季の間に雨水を集め運河や池に貯めていたが、静止した水の中ではバクテリアが繁殖し、致命的な病気を蔓延させる可能性がある。
しかし、シンシナティ大学の研究チームによると現地の貯水池ではマヤの技術者が、都市に安全な飲料水を供給するために、石英とゼオライトの砂をベースにしたフィルターシステムを設置していたという。
貯水池の底はゼオライトと石英砂の層で覆われていたが、その上には石灰岩とヤシの繊維で作られたフィルターがかけられ、砂が水によって洗い流されるのを防いでいた模様だ。
石英の粒は有機物の破片を吸着するフィルターの役割を果たしていた。さらにゼオライトの結晶構造は立体的な網目状になっており、金属イオンや有機物から生じる有害物質を吸着し、水を浄化していたものと考えられる。
研究チームによると、これらの鉱物は地元の石灰岩には含まれておらず、調査の結果、ティカルの北東約30キロにあるバホ・デ・アズカルの周辺の岩から切り出されたものと推測できるという。
貯水池の堆積物の層は、放射性炭素年代測定によって約2200年前から965年前のものと推定され、マヤ人たちが1000年も前に水の濾過システムを構築していたことを示唆している。
「彼らのフィルターは、有害な微生物や窒素を含む化合物、水銀などの重金属を水から除去していた」と研究チームは述べている。ゼオライトや石英は、現在の水質浄化システムでも使用されている。
「マヤ人たちは、同様のシステムが欧州で利用され始める2000年近く前に、水の濾過システムを構築していた。これは世界で最も古い水処理システムの一つと言える」と研究者らは指摘した。