さらに日本の雇用情勢が非常に厳しくなっていることに不安を募らせる。
「外国人を採用する企業が減り、採用人数が減っています。日本人の雇用は厳しいですが、外国人の就職はもっと厳しいです。外国人観光客が入国制限されているので、外国人の接客などの仕事もありません。有名大学を卒業した先輩ですら就職先が見つからないと困っています」
中国の就職難にコロナ禍が追い打ち
このような中で、李さんは中国での就職を視野に入れるようになった。中国は基本的にはコロナが収束しており、一部を除いて経済がコロナ前の状態に戻りつつあるからだ。先輩の中にはオンラインで中国企業の就職面接を受ける人もいるという。
李さんは「これまでの多くの中国人留学生が描いていたのは『日本で進学し日本で就職する』ということでした。まだ、はっきり決めてはいませんが、いまは一つのルートにこだわるのではなく、例えば、日系企業が集まる広州あたりで仕事を探すなど、選択肢をいろいろ広げていきたいと考えています」と話す。
しかし、中国も就職は厳しくなっている。コロナの影響による企業の採用控えもあるが、それ以前に中国では大卒者が急増しており、就職難が指摘されていた。2020年の新卒者数は前年比40万人増の874万人で過去最大となっている(中国教育部)。希望する企業に就職できず、一旦中国の大学院に進学して就職の準備をする新卒者も増えている。
中国人が留学に求めたのは「就職競争力」
近年、留学生の数が増えており、その規模は世界で約510万人だ。留学生の送り出し国で最も多いのは中国で、全留学生の約3分の1に相当する160万人が各国で学んでいる。留学先は米国、英国が多いが、日本にも約12万人の中国人留学生が在籍している。
中国では高い経済成長などから留学のための出国者が急増している。2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の感染拡大時は一時的に減少したものの2005年には回復した。2010年には2005年の2倍の28万人が出国している。2015年以降は右肩上がりで、前年比二桁増になった年もある。2019年の出国数は71万人に達した。中国教育部は2020年の海外の中国人留学生数を160万人と発表している。
中国の研究調査機関「艾媒咨询」が2018年に行った中国人の留学生調査によると、90%が自費留学だった(国費留学と企業派遣は各5%)。また6割の学生が大学や大学院への留学を希望していた。留学目的については、「国際化視野を広げ人脈を培う」、「就職競争力をつける」、「より良い教育資源のため」などが多い。
留学の増加の背景には中国国内での厳しい就職状況があり、艾媒咨询の調査が示唆しているように、中国人の留学の主目的は「就職競争力」をつけるためであったのだ。