自殺未遂騒動から一転 「獄中鑑定」の実現に与えた意外な影響|#供述弱者を知る

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小出君は「正式な鑑定は医師と臨床心理士が2人で行うことになります。直接検査を実施するのは臨床心理士です。臨床心理士は私の方で確保しようと思っています」と説明した。

とんとん拍子に話が進んでいた。

報道できるかは「獄中鑑定」の結果次第


そこで私は紙面化への考えを説明した。

「取材班としては、報道できるかどうかは獄中での鑑定にかかっていると考えています。今の時点で小出君は『軽度知的障害、発達障害がある』と見ていますが、少なくとも何らかの障害がある、という鑑定結果が出れば、冤罪の可能性を指摘する報道は可能だと見ています」

発達障害の視点でのアプローチによって、司法が社会の変化に追いついていないがゆえに冤罪が生まれた可能性を指摘する意義も付け加えた。

発達障害と捜査の観点で言えば、西山さんが逮捕された2004年には発達障害者支援法の国会審議が始まり、年末に成立。翌2005年の一審判決前には施行されている。この背景に触れ、こう伝えた。

「西山さんは、公的機関によってケアされるべき立場にあったにもかかわらず、逆に障害が原因で嘘の自白に追い込まれてしまった。その後の支援法の改正で『司法手続きにおける配慮』も明記されているのに、いまだに配慮のかけらもない。法の運用はおろか、その精神すらまったく浸透していない司法の実態を広く問題提起できると思います。自白偏重主義の司法がいかに時代錯誤かということを世に訴える機会にしたい」


獄中鑑定に向けた準備は、予想以上にとんとん拍子に進んでいった (Shutterstock)

井戸弁護士は「裁判官による尋問、取調官による取り調べに際しても、発達障害を理解したスキルが必要だという非常に重要な問題提起にもなるでしょうね」とうなずいた。

私は報道が複数回に及ぶとの見通しと、これまで法廷で認定された事実と、西山さんの手紙に書かれている事実が180度違い、手紙の内容の方が信用できることも報道上は重要だと説明した。

「裁判では、限られた期間の供述だけで事実認定しているけれど、供述の変遷は激しく、警察が西山さんを犯人に仕立てようとした意図的なもの。素人感覚でも信用するに値しない。なぜこんなものが法廷で認められたのか不思議で仕方がありません。その一方で、13年間彼女が書き続けている手紙の内容には矛盾がなく、これを真実の訴えと読まずして、どう読むのか、という内容。そこを比較しながら、捜査でつくられた虚構の真実を突き崩したい。法廷では裁判官を納得させる必要があるけれど、報道の使命は読者の納得を得ること。そのために、医学的なアプローチがカギになります」
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文=秦融

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