自殺未遂騒動から一転 「獄中鑑定」の実現に与えた意外な影響|#供述弱者を知る

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「虚偽供述の問題は供述心理学者の鑑定を提出してありますが、それとは異なる精神医学の視点からのアプローチは大変ありがたいと思っています。障害の可能性は想定していなかった。専門医の立場からの意見をぜひ伺いたい。獄中で精神鑑定が実現すれば、鑑定結果を、自白の信用性に関わる新証拠として提出したい」

うその自白に至るプロセスを読み解くという「精神医学」からのアプローチは、未解明になっていた「西山さんがうその自白をした理由」を紐解くカギとなり、弁護団にとっても重要な意味があった。

1審の裁判官は、鑑定書を一蹴していた


裁判では、第1次再審請求審で2010年に弁護団が脇中洋・大谷大教授の供述心理鑑定書を提出し、自白を虚偽だと認定したが、裁判所に一蹴された。井戸団長の体制になった第2次再審請求審でも2014年にさらに踏み込んだ分析を加え、意見書として提出していたが1審の裁判官は評価しようとしなかった。

脇中教授は供述心理学の第一線で活躍しており、西山さんにも獄中で面会した上で鑑定。意見書では再度、西山さんの性格を「かなり高い迎合性がある」「対人的葛藤状況に置かれると自暴自棄になる傾向がある」「依存性人格障害あるいは愛着障害の可能性が見られる」と分析。あらためて「自白は体験に基づかない虚偽供述を次々と変遷させていった」と読み解いた。

さらに、虚偽供述に追い込まれた末の冤罪が続発していることに触れ「多くの人間が虚偽供述に陥ったとすれば、尋問方法が誘導的であったとか、強い圧力をかけた追及をした等の取り調べ状況に問題があったと考えられる」と言及。旧態依然とした捜査手法が日本の冤罪の背景に潜んでいることを強調する踏み込んだ内容になっていた。

小出君は意見書をすでに読み込んでおり、井戸弁護士に「あれだけ緻密に分析した鑑定書をなぜ、裁判所が見向きもしないのか、不思議で仕方がない」と感想を語った。

脇中教授の意見書では「さらに実証的に検討するためには、発達臨床的な成育歴の検討や、請求人の人格査定が必要となる」とも指摘されており、再審に向けての小出君の参画は、まさに虚偽自白の分析で残されていた最後のピースを埋める可能性を秘めることになった。

そして「刑務所への申請をどのように進めるか」という話に移り、井戸弁護士が見通しを語った。

「弁護団から再審の証拠資料として、精神科医による精神鑑定が必要、との意見書を刑務所へ提出しましょう。意見書は小出さんから弁護団あてに一筆書いて頂き、その意見書をもとに弁護団が刑務所へ申請する形を取ります。刑務所からはおおむね1週間から10日で返事がくると思います」
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文=秦融

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