パリは昔から、公園や庭園の多い「グリーン」な街だった。だがイダルゴ市長は、化石燃料車の禁止は公衆衛生上の問題であり、観光に大きく依存する同市の経済にとっても重要だと強調している。大気汚染はもはや許容できないのだ。
大気汚染により本来の寿命よりも早く死亡する人の数は世界全体で毎年700万人にも上ると推定されている。考えてみてほしい。世界で100万人以上を死に至らしめた新型コロナウイルスが衝撃的で深刻な問題だとするならば、その7倍もの犠牲者を出している問題について、私たちはどう対処すべきなのだろう?
イダルゴの決断は大胆であると同時にとてもシンプルで、市民が健康を犠牲にすることなく空気を吸える街づくりを目指している。同市の野心的な交通改革は既に功を奏しており、街中には自転車専用レーンが整備され、住民が長期レンタルできる電動自転車も多数用意された。電動自転車は、各地の都市計画の重点施策として採用が進んでいる。自転車専用レーンも、車の行き交う都市部を自転車が安全に移動するために不可欠な設備として、各地で導入されている。
各都市が今後すべきなのは、現在一般自動車が使っている道路の一部を、公共交通機関と超小型モビリティ(マイクロモビリティ)車両専用に割り当てることだ。自動車中心の都市設計は歴史的誤りであり、市民の健康を守るために是正すべことを、イダルゴは理解している。数年後のパリからはスモッグが消え、住民と観光客がそれまでと比べてはるかに健康的な環境を享受できるようになり、世界がうらやむ都市となることだろう。
こうした施策は自然と、人々の選択に変化を促す。パリで2024年にディーゼル車が使えなくなることがわかっていれば、住民はディーゼル車を購入しないだろう。ガソリン車を選ぶこともできるが、2030年までの使用禁止が発表されたことで、移動手段は公共交通機関や超小型モビリティ、あるいは電気自動車に切り替える必要があることは明らかだ。自動車市場はテスラの参入により変化し、今では自動車の所有経費(燃料、メンテナンス、電気モーターの耐久性など)を総合的に考慮すればガソリン車に引けを取らない価格の電気自動車も多く登場している。
新型ウイルス感染拡大に伴うロックダウンにより、数十年にわたり大気を汚染してきた自動車文化を捨て去れば都市の空気が瞬く間にきれいになることが分かった。数年後のパリは、空気がきれいで快適かつ交通の便が良い街になる。また、自動車中心の都市設計は生活費の増加につながり、その影響は自動車を所有していない人さえも被っているため、住民は生活費を下げられるだろう。これからのパリは観光客にとって、美しい街並みを楽しむだけでなく、自分の暮らす都市がモデルとできる存在となる。
世界中の都市が見習うべき街づくりに取り組んでいるイダルゴ市長に、私は感謝したい。他の都市が追従するまでの間、「私たちにはいつでもパリがある」のだ。