イノベーション支援企業として、人材派遣だけではないRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)も含めた総合的なリソース提供を行い、事業成長をサポートするアウトソーシングテクノロジー。その代表取締役社長・茂手木雅樹は、日本経済の持続的成長に向け、スタートアップ支援も視野に入れているという。
そこで実現したのが、ベンチャーキャピタリストとして市場を見つめ続け、数々の実績をもつ高宮慎一との意見交換だ。スタートアップが成長のために求めていることとは何か、VC目線からの忌き憚たんのない意見を茂手木が聞いた。
スタートアップを見極めるVCの目
茂手木雅樹(以下、茂手木):まずお聞きしたいのが、スタートアップのどこを見て企業価値を判断しているのかということです。高宮さんは業務遂行時、“信頼”を大切にされているそうですね。
高宮慎一(以下、高宮):ベンチャーキャピタルから見るスタートアップがどうなるかは、当然のごとく、時期がアーリーであればあるほどわかりません。ビジョンがあるのは当然ですが、それがどれだけ実現可能かは、誰にもわかりません。
起業が成功に至るまで、5〜7年程度かかります。長期間付き合っていくためにも、まずは人間性を見極める必要があります。
まずスタートアップが成長するために、外部リソースが必要な時期が必ずやってきます。そのときに優秀な人材を集めることができる人物なのか、そこに起業家の人間性は大きく関わってきます。
さらに、逃げ出さない、裏切らない、仁義は通すといった人としての基本みたいなところも大事だと思っています。そのあたりは仕事以外の部分で見えてくることが多いですね。そして何かを一緒にするなかで、同じ方向を見て進める人間なのか、見極めることが重要です。そうして“信頼”することができれば、あとは戦略などは実際に走りながら軌道修正すればいいと思っています。
茂手木:事業を進めるにあたって、信頼が大切だというのは同感ですね。私たちが行うM&Aの場合でも、買収先経営者との話し合いのなかで、どれだけ信頼を構築できるかは鍵になります。このM&Aによって、どのような未来を描いているのか、細かくビジョンを確認するのです。
私自身「一代ではできないこと」を達成するという目的のため、会社を売却する道を選びました。そこにはやはり信頼関係がありました。だからこそ、未来を見据えて売却することができたのです。同じ方向を見ることができるかというのは、M&Aにもそのまま当てはまりますね。
高宮:いざ買収してみると、主要メンバーはすべて離脱してしまい、企業が空箱状態になっていたというケースも聞きます。しかしそうした配慮の利いた手順ならば、リスクは減らせますね。
茂手木:日本におけるM&Aはドライな欧米とは違い、もっとウェットなものですから。“重複した人材も切らない”と約束することさえあるのです。企業効率だけを考えれば明らかに不要でも、事業継続のモチベーションを維持するためには必要という判断をすることもあり得るのです。
高宮:欧米はもともと業務自体がモジュール型で、人員を切りやすい仕組みになっていますからね。その点日本は、すり合わせ型で業務に重複があるし、人員も簡単に整理するわけにはいかない。
茂手木:その通りです。日本には日本のM&Aのやり方があるのです。
日本の事業ポートフォリオの刷新
高宮:アウトソーシングテクノロジーが興味深いところは、単なるエンジニア人材の派遣にとどまらず、テクノロジーの提供もしている点です。この発想はどのように生まれたのですか。
茂手木:もともと私たちは、企業が抱える悩み全般を、人材不足という“点”ではなく総合的な“面”で引き受けてきた背景があります。必要なのはソリューションであり、アウトプット。10人必要な現場があったとしても、1人+RPAという解決が可能であれば、提案します。これが「派遣2.0」という考え方です。
高宮:正しい方向性ですね。おそらくいま、日本株式会社はそうした事業ポートフォリオの刷新が求められているのだと思います。ただその革新は同時に、人材の再配置を要求します。減った分の人材リソースの割り当て直しです。人材の流動性ですね。
茂手木:そこで私たちが「人材のプール」として機能するのです。人材をプールすることで必要なときに必要なだけ各企業がピックアップすることができ、不要ならば戻すことができるシステムを構築しています。スキルが足りない場合は、教育も提供することができます。
高宮:なるほど、その仕組みがあることによって人材配置に悩む企業にとっては柔軟にリソースを配分、見直しが可能ですし、マクロな視点で見ても雇用の調整弁的な機能になりますね。
イノベーションに必要なリソース
茂手木:大企業では従来の人材が余る一方で、新規事業のための人材は不足しているという問題があります。ただ、この施策がスタートアップにもそのまま当てはまるのかどうか……。
高宮:そもそもスタートアップは“もたざる者”であり、成長のために外部リソースを上手に取り入れられるかが勝負の分かれ目にもなります。私はスタートアップこそ、この仕組みを活用すべきだと思いますね。
新型コロナウイルスがもたらした社会では、ますます終身雇用からの脱却が進み、プロジェクトベース、複業など柔軟な働き方を促進する方向にシフトすると思います。リソースプール的な考え方は、スタートアップにもそのまま当てはまります。
茂手木:新技術が日進月歩の時代、いま必要なリソースが今後役立つとは限らない。そのリスクを私たちが取ることによって、全体のビジネスを加速する、それはスタートアップにも役立つのですね。
またここには未来の働き方もあります。かつて派遣はよいイメージではありませんでした。しかし企業に縛られずさまざまな場所で能力を生かすことのできる働き方に、魅力を感じる若者も多くなってきました。そのため今年は新卒2,000人を採用しましたが、来年は2,300人まで採用を拡大する予定です。
高宮:リソースの選択肢に自由が生まれるこの仕組みは、彼らにとっての理想的な支援だと思います。
アウトソーシングテクノロジー
https://www.ostechnology.co.jp
茂手木雅樹◎2004年から数々の会社を立ち上げ、12年にアウトソーシンググループに参画、14年にアウトソーシングテクノロジー代表取締役社長就任、業態変革を図る。
高宮慎一◎東京大学経済学部卒、ハーバード大学経営大学院MBA修了(二年次優秀賞)。2019年にグロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーに就任した。
▼Forbes JAPAN x アウトソーシングテクノロジー 特集「PEOPLE x TECHNOLOGY」
#1公開中|働くで「みらい」をデザインする アウトソーシングテクノロジーの「派遣2.0」モデルとは
#2本記事|「信頼」と「人材の流動性」がゲームチェンジのキーワード。アウトソーシングテクノロジーの支援策がスタートアップにも有効な理由