せめて月に一度くらい、可能なら二度でも三度でも、誰にも邪魔されず、両手を伸ばして深呼吸をするために滞在するのはどうだろう。
東京のホテルは、時に伝統文化や江戸の粋が活かされ、また時には、都会らしい最新鋭設備を纏うなど、それぞれが個性的に進化を遂げている。ゆったりと異空間に身を委ね、すべてを忘れて過ごす癒しの時間。まずは週末、金曜日の夜にチェックインして、日曜の午後まで、別宅で過ごすように、自分独りで夢想に浸るのも今どきの流儀であろう。
ホテルジャーナリスト せきねきょうこ
伝説のファッションビル跡地に誕生 青山地区に似合いのホテル
東京青山地区は大人の街として知られ、感度の高い人々が行き交い、銀座ともひと味違うファッションの発信地である。その青山2丁目の交差点に建ち、長い時代、ファッションを牽引していたのが「旧青山ベルコモンズ」だ。このファッションの複合ビルが数年前に取り壊され、周囲では「何ができるのか」と待ち望んでいた。
そしてついに2020年8月5日、多くの人が待ち望んでいた洒落たホテルが誕生したのである。青山地区には、長い間、不思議とラグジュアリーホテルがほとんど存在せず、活気のあるエレガントな街ながらホテル不在のエリアだった。
ホテル名は「THE AOYAMA GRAND HOTEL」。三菱地所の複合商業施設として、同年7月1日開業した青山の新ランドマーク「the ARGYLE aoyama(ジ・アーガイル・アオヤマ)」の施設内に入っている。地下鉄の外苑前からは徒歩3分、通称青山通り(国道246号)沿いにある地下鉄表参道駅からも徒歩で10分以内、アクセスの良さも都心らしい便利さにある。
4階にあるホテルのレセプションは、レストラン「THE BELCOMO」の入り口と共用。ホテル用にはこの受付の裏側に座ってチェックイン/アウトのできるデスクも設置。
ただ開業以来、「THE AOYAMA GRAND HOTEL」は派手な広報活動もなく、今に至っても、その存在すら知らない人が多いのではないだろうか。それでもスタッフは、「はい、余り宣伝はしていなくて……」と自信ありげに苦笑する。確かに、一度館内に入り驚かされたのは、オープン直後でありながら、4階のオールデイダイニング「THE BELCOMO」は大いに盛り上がりを見せていた。
メインダイニング「THE BELCOMO」の店内。オープンキッチンでは若い総料理長とスタッフが手を抜かない絶品料理を作る様子がうかがえる。活気あふれる都会のビストロだが、ティータイムには大きなベランダ席でパソコンに向かう人も。
ランチタイムとはいえ、テーブルはほぼ満席に近く、世界中の美味しい料理がオリジナル料理に昇華され、丁寧に手を掛けた料理が次々と出され、どれもオリジナル料理のグルメなレストランとしての賑わいである。
ベビーカーを押すママ友グループ、ホテル通らしき男性、近所のOL、スーツ姿のビジネスマンなど、様々なジャンルのゲストが席を埋めていた。まさにホテルやレストランが理想とする“ジャンルを超えたゲスト”を早くも魅了しているようであった。
「THE BELCOMO」で食べる朝食は和食と洋食のチョイス。前菜はオーダービュッフェで好みが選べ、メインディッシュはアラカルトでも。