ベルギーのゲント大学の研究チームは現在、ナノテクノロジーの研究機関であるImecの協力を得て、スマートコンタクトレンズのプロトタイプの臨床試験を行っている。
彼らが開発したスマートコンタクトレンズは、液晶の「ディスプレイ」を取り囲むコンタクトレンズの気泡と、特定用途向けの集積回路ASIC、複数のセンサー類(光センサー、加速度センサー、ジャイロスコープ)、さらに非常に薄い固体リチウムイオン電池をサンドイッチ構造にしたものという。
「このデバイスを用いて、人々の視覚を変えようとしている。私たちは様々な病気や障害を取り除くための研究を進めているが、なかでも光に対する感度が高い人たちの悩みを取り除こうとしている」と、ヘント大学のアンドレス・バスケス・クインタロ助教授は先日の筆者のポッドキャスト番組TechFirstで語ってくれた。
助教授らがスマートコンタクトレンズで改善しようとしている症状の一つが、光恐怖症(photophobia)と呼ばれるものだ。光恐怖症は、蛍光灯や白熱電球の明るい光源に耐えられなくなる症状で、クインタロ助教授によると慢性の偏頭痛を引き起こす場合もあるという。
スマートコンタクトレンズは、明るすぎる光を検知すると、スクリーンで光の一部を遮断して、患者の視覚を保護するという。つまり、このデバイスは人工の虹彩の役割を果たすのだ。
「スマートコンタクトレンズを用いたハイエンドのARの実現は、まだ先のことになる。初期のスマートコンタクトレンズは、視力の問題を抱えた人々を助けることが主な目的になる」と助教授は話した。
「ARに関して言うと、初期の段階では弱視の問題を抱えた患者を、少ないピクセル数の映像で支援することが考えられる。つまり、スクリーン上に大きな矢印で進むべき方向を示したり、ストップサインを表示するような仕組みが考えられる。映画などのリッチなコンテンツを表示するのは、その先のテーマになる」と助教授は続けた。
バッテリーは1日間持続
このスマートコンタクトレンズはまだ臨床試験の段階だが、全ての電子部品はレンズの層の間に安全にはさまれており、サイズも一般的なものとあまり変わらず、非常に快適だという。さらに、バッテリーの持続時間もほぼ1日に達しているという。
研究チームはこのデバイスから、他にも重要な医学的洞察を得ようとしている。レンズ内に様々なセンサーを統合することで、患者の体内の状態をフィードバックすることができるのだ。
もちろんそのためには特殊なセンサーや、より多くの電力が必要になる。さらに、助教授らはブルートゥース通信に対応させることも検討中という。これらはすべて、現時点ではまだ未来の話ではあるが、今後の研究の進み方次第で、大きな進化が医療分野にもたらされるかもしれない。