しかし、クリエイティブディレクターの佐藤可士和は、その目立たない要素を「コントロールすること」が有効なブランディング戦略だという。
2000年に自身の会社「SAMURAI」を立ち上げた佐藤は、2003年から楽天にチーフクリエイティブディレクター(CCD)として籍を置く。その楽天はこの7月、4書体からなる「フォントセット」を開発したことを発表した。
身近なところでは、メルカリが昨年11月にコーポレートフォントを発表しているが、コーポレートフォントとは、どのような戦略とプロセスで生まれるのだろうか。制作を監修した佐藤と楽天デザインラボのメンバーに話を聞いた。
フォント開発の様子。左が佐藤、右は楽天デザインラボのデザイナーChee Yen Thye(タイ チーイエン)(c)楽天
「大企業、または様々なサービスを展開する企業にとっては特に、フォントの統一は有効なブランディング戦略です。日本語のフォントは難しいけれど(今回開発したのは英数字のみ)、それでも英字をコントロールすると、ロゴや広告、ウェブサイトはもちろん、名刺や提案資料においてまでイメージを統一することができる」。佐藤はフォントの役割についてこう話す。
そうした考えから、2003年のCCD着任後、楽天のロゴを新たにデザインし、フォントを選定。2012年には、楽天初のオリジナルフォント(1種類、2書体)を開発した。それを今回4種類に増やしたのは、どんな戦略があってのことだろうか。
「いまや楽天のサービスは70を超えます。いろいろな表現が求められるなか、コーポレートフォント1種類で対応するのは難しくなった。4種類あれば、サービスの多様性を表現しながらも、統一感を出すことができる。今後さらに事業が増えても、対応しやすくなります」
Eコマース、金融、トラベル、スポーツなど国内外で展開する様々なサービスを展開する楽天は2018年6月、新しいステージへの挑戦の決意としてグローバルロゴのデザインを一新した。フォントについてはその後、同年末に構想を始めたという。
しかし、その制作には膨大な時間と費用がかかる。今回の4フォントは、本格的にプロジェクトが開始してから完成するまでにおよそ1年を要した。