1990年代にコンチネンタル航空を見事に復活させたCEOゴードン・ベスーンは、航空業界は最も愚かな競争相手と同じ程度しか賢くないという言葉を残した。彼はこの言葉を、他の航空会社が自社の都合だけで運賃設定をしているのに不満を抱いたときに何度か用いている。では、一部の席を売らないことは馬鹿げたことなのだろうか? それとも全席販売をするほうが愚かなのか? その疑問の答えは、どれくらい先まで見通しているかによって変わってくる。
目先の現金か? 客の信頼か?
航空会社のいまの優先課題のひとつに、利用客の信頼を取り戻すことがあるのは別の記事でも述べたことがある。私はこの3週間で3回飛行機を利用し、その旅のことを多くの人々に話して聞かせた。旅はおおむね支障なく終わったので、話を聞いた人にはなにがしかの勇気を与えられたと思う。逆に、もし飛行機が混んでいたとか、マスクの着用が守られていなかったという話をしたら、反応はまったく違うものになっていただろう。一部の航空会社は長期戦を、別の航空会社は短期戦を戦っていると考える理由はそこにある。
短期戦は収益を最大化し、現金をすぐに手に入れるための手段である。座席を売れるだけ売れば航空会社の限界費用は下がるから、空席にするよりは値段を下げてでも売ったほうがよいということになる。そうすれば確かに当月と四半期の収益は最大になるかもしれない。だが、そのために犠牲にしたものがあるのではないか?
トリップアドバイザーなどの旅行サイトでは、アメリカン航空、ユナイテッド航空、スピリット航空の混雑したフライトとその危険性への不満が紹介されている。この方針は、すみやかな需要回復のための最善の道なのだろうか? 座席を限定して販売しているアラスカ航空、デルタ航空、ジェットブルー航空、サウスウエスト航空に乗った人々の意見と比較してみたらどうだろう?
そうした乗客の意見には、いまだにびくびくしながら乗っている人々の賛同も得られるはずだ。長期戦というのはそのことで、これこそが新型コロナウイルス流行以前の需要を取り戻すという航空業界全体の最重要課題を実現するための最良の手段なのである。
カリフォルニア、ロサンゼルスの空港に離陸するアラスカ航空の旅客機。アラスカ航空は座席の限定販売を行っている(Getty Images)。
全席販売を選択して、たとえ一部のフライトは満席になっても、それ以外の便の搭乗率は50から60パーセントでしかない。つまり、信頼を築くためのコストは決して高くはなく、全席販売の利点は褒めるに値するものではないことになる。