篠山紀信「時代だなぁ、と強く感じる」 監督作品が初の劇場公開

初の劇場公開作品を発表した篠山紀信(中央)と姉妹のモデル Rina&Mari

「今、世界はコロナに覆われてしまった。
『ヴェニスに死す』のようなイタリア。スケートリンクに遺体が安置されるスペイン。無人の電光板だけが眩しいタイムズスクエア。志村けんのいないトーキョー。
りな&まり。姉妹が辿り着いた溶岩の黒い島は暗く、人は家にこもり、風だけが強く吹き抜けていた。
時代だなぁ、と強く感じる。
本気(まじ)、二人には幸福になってもらいたい」

写真家の篠山紀信が監督・撮影を務めた映像作品「イル・ノワール ÎLE NOIRE 黒い島」が、9月10日まで、UPLINK吉祥寺にて1週間限定で公開されている。篠山の手掛けた監督作品のロードショーは自身初。出演は姉妹のモデル、Rina & Mari。

冒頭の言葉は、この作品に篠山が寄せたメッセージだ。

巨匠が感じた「初めての感覚」


撮影は約1年前に行われ、2020年5月下旬の公開が予定されていたが、コロナ禍により延期。約3カ月を経て公開に至った。

「イル・ノワール ÎLE NOIRE 黒い島」は、ヌードを含むモノクロの動画と静止画で構成された35分の作品。冒頭から、スクリーン上に黒く波打つ海が映し出された後に、岩場で一糸まとわず寝転ぶRinaの姿が突然現れ、一瞬戸惑ってしまうかもしれない。官能的なシーンだけでなく、岩場に打ち付ける高い波を背景に姉妹が黒のワンピースを着て踊ったり、2人で喜び合うようなシーンもある。セリフや明示的なストーリーはなく、緊張感のある音楽とともに流れる映像からは不穏な空気さえが漂う。



公開初日の9月4日、UPLINK吉祥寺にて「イル・ノワール ÎLE NOIRE 黒い島」完成披露試写会が行われ、篠山は劇場で初めて自身の作品を観た感想を述べた。

「なんとも言えない不思議さと、セクシュアルな感じがした。たくさんの人に観てもらい、恥ずかしいというか。はじめての感覚に取り込まれました。写真というのは、モデルさんと密な関係で撮影し、プリントされたものを見て、愛でたものが写真集などに組まれていくもの。(今回は)ここにいる皆さんがこの作品をどう思っているのかな、そんなことを感じました」

ロードショーの開催については「新しい表現として、面白いと思います。映像のサイズもいいし、音の大きさもいい。写真家は紙や展覧会だけで作品を発表するのではなく、音楽や編集の方と一緒に作品を作ると良いのでは。今までとは違う受け入れられ方をすると思います。いろんなクリエイターの刺激になればうれしい」と語った。

Rina&Mariと “ある島” で臨んだ撮影の様子について、篠山はこう語った。

「『こう撮るから、こういう格好で』といった指示は一切しなかった。僕が撮る場所を決めると、そのときの風の強さや波の音などを感じて2人が自由に動いてくれた。感覚的な力が作用し、自然とできていった」

出演者の2人は「篠山先生の感性に食らいつこうと必死だった」(Mari)、「雨や風、そして大雨から晴れに。天気の移り変わりも色々ありましたが、篠山先生にはカメラを持つと空気を変える力がある。さまざまなものを引き出していただいた」(Rina)と、約1年前の撮影を振り返った。

新型コロナで映画館が休業した影響で公開も延期となったが、「コロナ禍で公開できるかどうかもわからない状態だった。この状況は人生の中でも大変な経験なんじゃないですか。やっと公開に至り、大変ありがたく思っている」と、感謝の意を表した。

今後の展開について、篠山は「見たことのないものを見たと言われるのは、嬉しいですね。僕は50年くらい写真家をしているのですが、写真は『死んでいく時』の記録。女性に限らず、写真+動画、音楽などさまざまな表現に挑戦していきたい」と語った。

編集を手がけたアートディレクターの宮坂淳は「篠山さんは時代とともに並走する写真家。渡された写真を元に制作に取り組んだのは年末年始だったが、2020年の暗い世の中を暗示する作品が偶然できてしまったことに驚いている」と語った。音楽は平本正宏が担当した。


Kishin Shinoyama・Masahiro Hiramoto

文=一本麻衣 編集=督あかり

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