コロナ禍により中期経営計画の見直しや撤回が多くの企業で見られる中、西武も同様に厳しい状況にある。しかし、10年戦略の歩みは着実に進んでおり、例えば、メットライフドームの改修と西武園ゆうえんちのリニューアルは来年に控えており、主要大型駅では高層マンション建設の増加、さらには、西武線のバリアフリー化の増強や、鉄道友の会が制定するブルーリボン賞を受賞した特急「Laview」の増備にいたるまで、沿線の発展に関わる新しいニュースが次々と入ってくる。
そして9月2日、西武グループは池袋と並ぶ拠点である所沢駅の第2期工事を終え、新生駅ビル商業施設「Grand Emio(グランエミオ)」を開業した。地上5階、店舗面積1万8500平方メートルは、沿線のビルとしては規模が大きい。
近年、丸の内や渋谷、高輪など、23区の主要駅では大規模開発が行われている。渋谷で言えば若者から大人へといった従来の街のイメージを刷新する変化を見せているが、この所沢は、街の色を変えてしまうのではなく、住民の暮らしぶりが見えるような形で新しくしていく印象だ。その一端は、オープニングセレモニーでも見えた。
「住民参加」のカウントダウン
グランエミオのオープニングセレモニーは、西武線沿線出身の宇賀なつみアナウンサーの司会のもと、西武グループの後藤高志代表取締役社長、藤本正人所沢市長、ともに開発にたずさわった住友商事の安藤伸樹常務、そしてとなり駅(東所沢)で新名所サクラタウンを立ち上げたKADOKAWAの角川歴彦会長など錚々たる顔ぶれで執り行われた。この駅がいかに重要な位置にあるかが分かる。
背景のボードには抽選で選ばれた市民がテープカットに参加。夫婦、家族、若者たちが元気に手を振る。ライオンズの帽子をかぶる子どもたちの姿もあった。
テープカットではTV画面に映る住民とともにカウントダウンが行われた。画面からの声はどれも嬉しさにあふれているように聞こえる。無論、イベント参加の楽しさからでもあろうが、その声が真新しい施設の吹き抜けに響き、声の後押しとともにハサミを入れるその風景が、大型の施設でありながら牧歌的で希望に満ちた印象を受けた。関係者のみで祝いがちなオープニングに住民が参加する企画は、ナイスアイデアであると同時に、西武の思いを反映しているものだろう。西武の後藤は挨拶でこう述べた。
「所沢はもとより、私たちが新しい街づくりを行う時に大切にしていることは、暮らす・働く・学ぶ・遊ぶ、の4つの要素が満たされることです。ここは西武新宿線と池袋線の結節点で利便性も高く、近隣には広大な航空記念公園などの多くの自然もある。都市と自然がバランスされた街は、所沢の大きな魅力なのです」
藤本市長も街と自然の距離を自虐混じりに所沢の良さをアピールした。
「市民は控えめで、こんなにも魅力がある街だということを自慢しない。でも、ここは街と自然の距離感が良く、そして多くの文化が育まれてきたエリアなのです(所沢は90以上の有形無形の指定文化財を持つ)。今年は所沢市政70周年の年。この開業は発展のひとつの起点になるでしょう」
セントラルプラザと名付けられた中央のスペース。吹き抜けからの光が全体を照らす。「#トコぶらしよう」のハッシュタグを記したスクリーンも。
「とこにわ」と名付けられた屋上庭園。
施設内は、300坪もの広さを持つTSUTAYA BOOKSTORE、また西武ライオンズ初となる、直営のスポーツBAR(日中はレストラン)などを含む、126店舗と公的出張所を備える。
予約制の特別室も用意されているスポーツバー。(コロナ禍で開業は9月中を予定)